ラケットで球を打った衝撃を“エアジェット噴射”で再現するVRデバイス 台湾などの研究チームが開発:Innovative Tech
台湾大学、カナダのUniversity of Waterloo、米University of Marylandによる研究チームは、卓球やバドミントン、テニスなどのラケットスポーツにおいて、球がラケットに当たった衝撃を圧縮空気のジェット噴射で再現するラケット型VR触覚デバイスを開発した。
Innovative Tech:
このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
台湾大学、カナダのUniversity of Waterloo、米University of Marylandによる研究チームが開発した「AirRacket: Perceptual Design of Ungrounded, Directional Force Feedback to Improve Virtual Racket Sports Experiences」は、卓球やバドミントン、テニスなどのラケットスポーツにおいて、球がラケットに当たった衝撃を圧縮空気のジェット噴射で再現するラケット型VR触覚デバイスだ。
VR内で飛んでくる球がラケットに当たった瞬間に先端に取り付けたノズルから空気を噴射し、その衝撃を方向性を持って力覚フィードバックで提供する。
手持ちラケットデバイスは、ハンドル、カーボンファイバー製のシャフト(直径14mmと23mm)、3Dプリントしたノズル、空気圧制御システムなどで構成する。これらは、卓球やバドミントン、テニスなどスポーツの種類に応じた実際のラケットに近いサイズや重さで作成する。
先端のノズルは、シャフトとハンドルの内側を通る6mmの低摩擦ポリウレタンチューブを介して空気圧制御システムへと接続する。空気圧制御システムはバックパックに収納し、ユーザーが背負いながら体験する。エアタンクの重量は1.5kg、その他制御システムの重量は848g、最大圧力は31MPa(4500psi)。
各装置には、実際のラケットの持った感触に合うように、スポーツ仕様のハンドルグリップが取り付けられる。また各装置のシャフトの長さは、実際のラケットの衝撃力の影響をよりよくシミュレートするために、ノズルがラケット面の中心(打撃ポイント)に位置するように配置する。またシャフトの太さは、ラケットの重さに応じて調整する。
卓球やバドミントン、テニス用にカスタム設計した装置の重量は、それぞれ147g、157g、258gであり、実際のラケットの120〜250g、70〜160g、230〜270gの範囲に含まれる。ラケットデバイスのトラッキングには、モーションキャプチャーマーカーを取り付け、6台のOptiTrackカメラを用いて追跡を行う。
実験では、空気噴射による触覚と従来の振動による触覚を参加者に体験してもらい、どちらが臨場感が高いかを評価してもらった。参加者はVR HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を装着し、VRコンテンツに応じて駆動するラケットデバイスを体験する。結果は、バドミントンとテニスでは参加者の92%が振動よりも空気噴射を好んだが、卓球では42%のみが空気噴射を好んだ。
空気噴射による衝撃の持続時間が長いと、参加者はより大きな衝撃力を感じるという新しい錯覚も発見した。実験において、衝撃の時間が50msよりも350msの方が2.57倍大きく感じると分かった。
Source and Image Credits: Ching-Yi Tsai, I-Lun Tsai, Chao-Jung Lai, Derrek Chow, Lauren Wei, Lung-Pan Cheng, and Mike Y. Chen. 2022. AirRacket: Perceptual Design of Ungrounded, Directional Force Feedback to Improve Virtual Racket Sports Experiences. In CHI Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI ’22). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, Article 185, 1-15. https://doi.org/10.1145/3491102.3502034
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