「月額0円」廃止 楽天モバイルを悩ませた“3つの誤算”(3/3 ページ)
楽天モバイルが5月13日に発表した新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VII」。現在の料金プランにある、月額0円で利用できる仕組みを廃止したことが波紋を呼んでいるようだ。そもそもなぜ楽天モバイルは月額0円という仕組みを導入し、なぜそれを廃止することとなったのだろうか。振り返ると見えてくるのは、楽天モバイルに相次いで降りかかった“誤算”の数々である。
3つ目の誤算「想定以上の赤字」
つまり楽天モバイルの「月額0円」は、ネットワーク整備の遅れで実施した無料キャンペーンで獲得した顧客を、低価格プランを投入してきた他社へ逃さないために取ったやむを得ない手段であり、できればやりたくなかったというのが本音だともいえる。それだけに同社はどこかのタイミングで料金の見直しを検討していたとみられるが、それが1年と少しという短期間での決行となったのには、3つ目の誤算“赤字幅の拡大”がある。
ネットワーク整備を急ぐ必要に迫られた楽天モバイルは、2020年8月に基地局整備を5年前倒しすることを発表、実際には半導体不足の影響を受けて約4年の前倒しとなったものの、それでも2022年4月時点で人口カバー率97.2%と、エリアを急拡大させたことは確かだ。ただその分設備投資費用も前倒しでかかることとなり、短期間で見れば赤字幅も大幅に増加。実際、楽天モバイルを主体とした楽天グループのモバイルセグメントは、2021年度の営業損失が約4212億円。2022年度第1四半期だけでも1350億円と、前年同期比で374億円増加している。
一方で、無料キャンペーンや「月額0円」の影響で契約者は急拡大したものの、それに伴いローミングエリアで利用する人が増えたことでKDDIへの支払い費用も急増。楽天グループ代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏が、決算説明会で「ローミング費用が高い」と漏らす機会が増えるなど、ローミング費用が経営の重しとなっている様子を伺わせていた。
その具体的な額は示されていないが、貸し出し元となるKDDI代表取締役社長の高橋誠氏は、2022年度は楽天モバイルからのローミング収入が「500億円程度減ると思う」と話していた。それゆえ2021年度は、少なくとも500億円以上のローミング費用がかかっていたと推察できる。
それに加えて競争激化によるRakuten UN-LIMIT VIの提供により、当初想定していなかった月額0円で利用し続ける顧客も増え、経営の負担になっていたことは確かだろう。そして一連の赤字は楽天グループ全体の経営にも影響を与えており、ここ最近“改悪”との声が増えている、スーパーポイントアッププログラムでのポイント還元率低下などの形で消費者にも影響が出てきている。
そうしたことから楽天モバイルは赤字の早期解消のため、顧客拡大から収益改善へと舵を切る必要が出てきたといえる。2021年3月には日本郵政グループなどから大規模な資金調達を実施したのに加え、2021年10月には39都道府県の一部でKDDIとのローミングを終了させることを打ち出し、ローミング料負担の解消に手を付けてきた。そしてより収益改善を急ぐべく手を付けたのが、今回の新料金プラン導入による月額0円の廃止なのである。
それゆえ今回の措置は楽天モバイルのビジネスにプラスに働く一方で、月額0円を目当てに利用していたユーザーに与えた衝撃も決して小さくなく、ユーザー離れが懸念される所でもある。実際、サービスの性質こそ違えど月額0円から利用できるという点では共通している、KDDIの「povo2.0」に乗り換える人も増えているようで、同サービスでは5月14日、申し込みが集中して本人確認に時間がかかる旨のリリースを出すに至っている。
そのこと自体は楽天モバイルも想定済みだろうが、「お金を払ってもいいから利用を継続したい」というユーザーがどの程度残るのか、そして月額0円という武器を失った後、顧客獲得が従来通り進むのかという点はまだ見えていない。収益改善に道筋は付けつつあるが、それによって失うものも大きく、茨の道はまだまだ続くというのが正直な所ではないだろうか。
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