体内のブドウ糖を電気に変える埋め込み式薄型電池 米MITなどが開発:Innovative Tech
米マサチューセッツ工科大学(MIT)とドイツのミュンヘン工科大学の研究チームは、体内のブドウ糖(グルコース)を直接電気に変換できる埋め込み式の薄型ブドウ糖燃料電池を開発した。
Innovative Tech:
このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
米マサチューセッツ工科大学(MIT)とドイツのミュンヘン工科大学の研究チームが開発した「A Ceramic-Electrolyte Glucose Fuel Cell for Implantable Electronics」は、体内のブドウ糖(グルコース)を直接電気に変換できる埋め込み式の薄型ブドウ糖燃料電池だ。この電池を体内に埋め込み、体内中のブドウ糖を電気に変え、その電気を医療用インプラントデバイスへの電力供給に活用することを目指す。
現在までのところ、医療用の埋め込み型デバイスは主に、リチウムイオン電池やRF伝送、超音波などの無線の電力伝送によって電力供給がされている。電池はその性質上、蓄電容量を犠牲にしなければ容易に小型化できず、無線による電力伝送はアンテナ面積に比例するため、無線の電力伝送の小型化の可能性も限定的である。
さらにペースメーカーの電池は非充電式であるため、電池のエネルギーがなくなると交換手術が必要となり、合併症のリスクもある。
このような限界があるため、代替の埋め込み型エネルギーが研究されている。今回提案するブドウ糖燃料電池は、これら代替の新たな電池として開発された。通常の電池と比較して、物理的にエネルギーを貯蔵するのではなく、体内で容易に利用できるブドウ糖を直接電気エネルギーに変換するため、体積の大幅な縮小が可能である。
体内埋め込み型であるため、体内のあらゆる場所で動作しブドウ糖を回収できる。例えば、間質液、血流、涙、脳脊髄液など幅広い体液を利用できる。
ブドウ糖燃料電池は、高いイオン伝導性と機械的強度を持ち、水素燃料電池の電解質として広く利用されているセラミック材料であるセリアから作られた電解質を使用して設計した。ブドウ糖燃料電池の厚さは370±40nm、面積は300μm×300μm。1cm2当たり約43μWの電力を生成するという。このブドウ糖燃料電池を30個、シリコンチップ上に配置させることに成功した。
ブドウ糖燃料電池は、セ氏600度の高温に耐えられる弾力性も備えている。すなわち、医療用インプラントデバイスに要求される高温滅菌処理を経ても安定した性能を維持できるため、医療用インプラントデバイスへの組み込みも可能である。
研究用セットアップでは、150個のブドウ糖燃料電池を配置させたチップを使って性能評価を行った。その結果、その多くが約80mVのピーク電圧を発生することが分かった。医療用インプラントデバイスに供給するのに十分な電力を引き出すことができるという。
Source and Image Credits: Simons, P., Schenk, S. A., Gysel, M. A., Olbrich, L. F., Rupp, J. L. M., A Ceramic-Electrolyte Glucose Fuel Cell for Implantable Electronics. Adv. Mater. 2022, 2109075. https://doi.org/10.1002/adma.202109075
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