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電気を一時凍結できる「冬眠電池」 使わない分は蓄えて、数カ月後に放電可能 米国エネルギー省が開発Innovative Tech

米国エネルギー省の研究施設「Pacific Northwest National Laboratory」(PNNL)の研究チームは、電力をあまり失うことなく数カ月にわたって蓄えられるバッテリーを開発した。

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このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 米国エネルギー省の研究施設「Pacific Northwest National Laboratory」(PNNL)の研究チームが開発した「A freeze-thaw molten salt battery for seasonal storage」は、電力をあまり失うことなく数カ月にわたって蓄えられるバッテリーだ。風力や太陽光といった再生可能エネルギーによる発電をいったん凍結し、数カ月後に放電する使い方ができる。


電気を凍結し放電するイメージ図

 夏場の日照時間は冬場より長く、平均して多くの太陽光発電が行われる。他にも、太平洋岸北西部では雪が溶けて大きく膨らんだ川が一連の水力発電ダムに最大出力をもたらし、春から初夏にかけて強風が吹き風力タービンも最大に押し上げる。このように季節によって発電できる容量が異なる。

 そのため、時期によっては過剰生産によるエネルギーの無駄や、反対に供給不足が発生する。過剰に得られた余剰エネルギーを蓄積し発電量が低い季節に補えれば効率が良く安定した供給ができる。だが、その期間大量に蓄えられるバッテリーは存在しない。電池は使わなくても自己放電するため、閉じ込めたエネルギーは自然と減っていくからだ。

 そこで研究チームは、自己放電を抑える「凍結融解バッテリー」と呼ぶ新たな電池を開発した。凍結融解バッテリーは次のような手順で電気の蓄積と放電を行う。

 固体溶融塩を180度まで加熱し、液体となった電解液に充電する。電池を室温まで冷やすことで溶融塩が固化し、エネルギーを伝達するイオンがほぼ静止した状態になりエネルギーが封じ込められる。エネルギーが必要なときは、電池を再加熱し放電する。

 実験ではコストを抑えるため、アルミ・ニッケルを使用した溶融塩電池プロトタイプを開発した。プロトタイプは電解液に硫黄を添加し、電池の蓄電量を増やし、負極と正極の間にはグラスファイバーのセパレータを埋め込んだ。


凍結融解バッテリーの概要図

 プロトタイプを試した結果、12週間経過しても初期容量の92%を維持でき、貯蔵と放電ができたという。理論上のエネルギー密度は1kg当たり260W/hであったという。

Source and Image Credits: Minyuan M. Li, Xiaowen Zhan, Evgueni Polikarpov, Nathan L. Canfield, Mark H. Engelhard, J. Mark Weller, David M. Reed, Vincent L. Sprenkle, and Guosheng Li. A freeze-thaw molten salt battery for seasonal storage. Cell Reports Physical Science



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