「クレカで乗車」は日本で普及するか? 交通系ICとのすみ分けは? 実験進める鉄道事業者の狙い(4/4 ページ)
日本では過去2〜3年ほどの間に鉄道やバスなどを含む公共交通機関での一般的なクレカによる乗車の仕組み、業界的には「オープンループ」という料金徴収システムの普及が進んでいる。
交通系ICではまかなえないニーズに使う可能性
複数の関係者の話によれば、JR東日本では今後もSuicaを捨てるつもりはなく、前述のインバウンド対応を含め交通系ICカードだけではまかなえないニーズをQRコードやモバイルアプリで補完していく計画を持っているようだ。
QRコードを紙の切符に印刷することで、単純に既存の磁気切符の置き換えにも利用できるが、例えば、プリンタで印刷した紙やスマートフォンの画面に映し出した形での利用も可能ため、オンライン発券した切符を窓口や自動券売機を経ずにそのまま改札に持っていって入場することも可能だ。
また、MaaSのアプリも組み合わせれば、鉄道やバスなどの公共交通に加え、シェアサイクルやシェアライド、さらには目的地の美術館やテーマパークといった入場券との組み合わせも容易になる。レストランや商業施設などとコラボレーションして、交通機関を組み合わせた送客も可能だろう。
従来、公共交通機関を絡めたMaaSの弱点の1つは、改札通過のために途中で交通系ICカードを要求される点にあった。だが改札通過もQRコードを利用できるようになれば、カードの種類や端末のNFC対応の有無も問わないため、よりスムーズな移動が可能になる。地域周遊やイベントと組み合わせた1日乗車券などの「企画券」の発行も容易になるため、トレンドとしてはむしろこちらの活用に傾きつつあると筆者は考えている。
ロンドンのパディントン駅で停車するHeathrow Express。欧州特有の駅の性質上、自動改札は存在しない。事前に予約して安いチケットを入手しておいたり、急いでいる客はそのまま飛び乗って車内でスマートフォン経由でチケットを購入するなど、さまざまな旅客サービスの提供方法がある
以上を俯瞰して「日本でクレカ乗車を可能にする『オープンループ』は広まるか」と問われれば、おそらく「イエス」と答えるだろう。
一方で、交通系ICカードの難点を克服するソリューション、より具体的にはQRコードやモバイルアプリなどの新しい仕組みが登場したことで、そちらも合わせた仕組みが広く浸透し、世の中はシンプルな1つの方式で統一されるのではなく、ニーズに応じてサービスを使い分けるような、そんな形で当面は落ち着くのではないかとみている。
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