世界初、NICTが日本標準時に「光格子時計」採用 UTCとの時刻差を“10億分の5秒以内”に
情報通信研究機構(NICT)は、光格子時計をもとにした標準時の生成に世界で初めて成功した。協定世界時(UTC)に対する時刻差を、従来の10億分の20秒から10億分の5秒以内と、4分の1以下に抑えられるとしている。
情報通信研究機構(NICT)は6月9日、光格子時計をもとに標準時の生成に世界で初めて成功したと発表した。光格子時計の1秒を基準に、標準時が刻む1秒の長さ(刻み幅)を調整することで、協定世界時(UTC)に対する時刻差を、従来の10億分の20秒から10億分の5秒以内と、4分の1以下で維持できるとしている。
NICTによると、UTCは国際度量衡局(BIPM)が提供しており、世界中の原子時計のデータを集めてその重み付き平均を取り、半月以上遅れて数値データとして決定されるという。そのため、UTCと完全同期した時刻を提供することは不可能であり、NICTでは2006年以来、水素メーザ原子時計と約18台のセシウム原子時計を使って、できるだけUTCと近い時刻を生成してきたという。
しかし、こうしたマイクロ波領域の商用原子時計は、複数台の平均を取っても発振周波数が15桁目で変動。その結果、数カ月でUTCとの時刻差が10ナノ秒以上に広がってしまい、そのたびにBIPMが公表する時刻差データを参照して、マニュアルで日本標準時の周波数を調整する必要があったとしている。
NICTが開発した「ストロンチウム光格子時計」は、ストロンチウム原子の光学遷移時に生成される光を活用。この遷移の固有周波数を、光周波数コムを利用してマイクロ波の電気信号に変換し、日本標準時のマイクロ波出力周波数と比較。日本標準時の刻み幅がどれほどずれているかを16桁の精度で計測でき、NICTが持つ時計のみでUTCとの同期が可能になったという。
2030年をめどに、秒の定義を現在のセシウム原子のマイクロ波領域の遷移から、原子の光領域の遷移周波数に変更する「秒の再定義」が、国際度量衡委員会の下部組織「時間・周波数諮問委員会」で検討されているという。今回の事例は、光時計によって標準時の精度を維持できる初の実証例になったとNICTでは説明している。
今後NICTは、高い精度の時刻や周波数を、Beyond 5G/6G通信や相対性理論による測地技術などへの活用を検討。また、自国のみで正確な時刻を刻めるようになることで、カーナビや基地局の時刻調整に使用されるGPSなど、他国が生成した時刻に依存せずに済むため、経済安全保障の面でも有効としている。
GPSを巡っては、過度な依存が世界的に懸念されており、米国ではGPSへの依存度を下げる方策を検討する大統領令がすでに出ているという。
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