すぐ投票で決めたがる子供たちと、議論を敬遠し人に深入りしない時代:小寺信良のIT大作戦(2/2 ページ)
議論をせずに、すぐに多数決で物事を決めたがる。世の中がそんな傾向にあると感じたことはないだろうか?
高度情報社会のバグ
一方大人でも、別の理由から議論を敬遠する傾向があるように感じられる。
先日もPTAのクラス役員選出が行なわれたのだが、選出方法改善の議論に全く進展がなく、面倒を避けて手短かに終わることが最優先された。詳細をここに記すと長くなるのでご興味のある方は筆者のnoteのほうを参照いただくとして、人的な対立が起こることも厭わず、短時間で会議が終わることが最優先されるというのは、異常な世界である。
時間がない、早く帰りたいということなのかもしれないが、もう1つの可能性として、一種の「曖昧さの回避」の意図が強い社会になっているのではないかと、先のツイートを読んで考える。
もともと「曖昧さの回避」とは、正しい結論が得られる確率は同じように不確かでも、数値的に確率が明示されているほうを選びたがるという人間の特性を表わす。つまり、曖昧でないほうが、リスクが避けられると錯覚するわけである。
これを先ほどの話に展開すると、着地点のよく見えない議論でいつまでも役員が決まらずに不安定な状態が長く続くことが不愉快で、くじ引きでもなんでもいいから一刻も早く安定状態へ移行したいと考える人が増えたのではないか。
これは裏を返せば、社会全体が効率化を求めるあまり、意志決定に時間がかけられない、常に即答即決が正しいと考えるようになっているということであろう。
例えば買い物1つとってみても、そこに来て初めて見るものなのに、なんとなく「早く決めなきゃ」と思ってしまうことはないだろうか。連れがあれば「まだ?」と言われてしまうし、店員さんには「お客様何かお探しでしょうか?」と、早く解決することを求められる。店員さんを小一時間も散々引っ張り回したあげく、「じゃあゆっくり検討してまた来ます」と言えるような人は、客として嫌われることは皆わかっている。
議論は、相手がどのような意見を出してくるのか不確実で、どのような結論に着地するのかが見えない。また自分にこうなって欲しいという強い希望があった場合、それは議論ではなく「交渉」である。妥協案や落とし所で納得出来なければ、結果はどこにも着地できない。また相手がどうしてもこちらの要求を飲まない場合、あるいは相手の要望が通った場合、それは「負けた」ことになる。
リスクの程度が測定できない議論をするぐらいなら、希望を募って多いものを採用した方が、数値的に測定できる。アンケートは議論の代替なのではなく、不安定な結果を避けるための意志決定装置の位置に座りつつある。
もちろんこれは、大きな問題だ。複数人の知恵を集めて、1人では達し得なかった結論を得ることは、人間社会の発展に欠くことができない。ただそこまで言っても、筆者は学生達がアンケートに走る気持ちを責めることができない。
教育によって、人との摩擦を極力避けるようプログラムされてきたという側面が1つ。さらにもう1つ、「その程度の問題ならすでに過去問に答えがある」という、高度情報社会に生きているという側面があるからだ。ネットで調べれば、複数の成功例や失敗例が見つかるので、その中から選べばすぐに最適解が得られるのに、なぜリスクをとってゼロから出発しなければならないのか。「いちからか? いちからせつめいしないとだめか?」というわけである。
小学生ぐらいから、「議論の練習」は行なわれてきたはずだ。だが学齢が上がるに従い、「これは練習なのだ」という前提が説明されなくなっていった結果、議論に挑戦するというモチベーションが失われていった。
誤った結論を回避したい、ハズレを引きたくないという思いは、自分の人生を自分でコントロールできないという考え方がベースにある。「親ガチャ」にも外れた今、もうこれ以上失敗できないという思いを、われわれは議論もできないのかと責められるだろうか。学生達は、高度情報化社会のバグに捕まってしまっている。
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