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耳垢のたまり具合を教えてくれるイヤフォン 長時間着用による難聴の早期発見もInnovative Tech

米国と中国による研究チームは、耳の健康をユーザーが容易にモニタリングできるイヤフォンシステムを開発した。耳垢の蓄積、中耳炎、鼓膜破裂などを日常的に検出する。

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Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 米University at Buffalo、米Northwestern University、中国のThe First Affiliated Hospital、米Harvard Medical School、米University of Coloradoによる研究チームが開発した「EarHealth: An Earphone-based Acoustic Otoscope for Detection of Multiple Ear Diseases in Daily Life」は、耳の健康をユーザーが容易にモニタリングできるイヤフォンシステムだ。耳垢の蓄積、中耳炎、鼓膜破裂などを日常的に検出する。

 このシステムは、既存のイヤフォンにマイクとスピーカーを組み込む方法で実装する。スピーカーから発した音の反射エコーをマイクで拾い、取得データからスマートフォンで特徴を抽出し深層学習モデルで耳の状態を判別する。


EarHealthのユーザーインタフェースとプロトタイプの外観

 難聴を患う人が増加している。特にワイヤレスイヤフォンの普及による、長時間のイヤフォン着用が難聴のリスクを増大させているという。

 耳垢貯留・閉塞(へいそく)や滲出性中耳炎(急性中耳炎に移行する前)は、多くの患者にとって明確な兆候を示さないことがあると文献で報告されている。耳の異常な状態に気付かず適時に適切な治療を受けなければ、それらの耳の病気は永久難聴、乳様突起炎、顔面神経まひ、髄膜炎などのより深刻な問題につながる可能性を秘めている。

 一方で、難聴は一般的に耳鼻科に行って検査をしなければならず、手間であり日常的ではない。日常の中で気軽に監視できれば早期発見や予防ができると考えられる。

 そこで今回は、ユーザーがタイムリーに耳の状態を監視できる低コストのイヤフォンシステム「EarHealth」を提案する。EarHealthはイヤフォン型の音響センシングシステムで、データ計算や記録を行うスマートフォンと組み合わせることで、毎日の聴覚の健康状態をモニタリングする。

 イヤフォン側では内蔵スピーカーとマイクを利用して発した音の跳ね返りである、外耳道内の生の音響データを収集する。スマートフォン側では音響特性を分析し、異なる耳の状態を識別する。


EarHealthは、まず音を出して反射エコーを受信し、次に音響的な特徴を抽出し、最後に訓練された分類器を用いて、耳の状態を判断する

 分析では深層学習ベースの分類器を活用し、外耳道構造の独自性(鼓膜破裂、耳垢の蓄積・閉塞、中耳炎など)と鼓膜の移動度合い(中耳炎、正常な耳の状態)から耳の状態を検出する。

 今回実装したプロトタイプは、既存のイヤフォン(Bose SoundSport)にMS-TFBマイクロフォンを組み込んだ。スピーカーとマイクをスマートフォン(Google Pixel 3a)に接続するために、2個のコネクターを持つケーブルを使用した。

 臨床現場から収集したデータセット(患者92人)をもとに、提案するEarHealthの有効性と効率性を評価する。その結果、イヤフォンを用いたEarHealthは、異なる耳の疾患の状態で提示される違いを正確に捉えることができることが明らかになった。

 今回のプロトタイプは有線ベースに仕上げたが、昨今の潮流であるワイヤレスイヤフォンに組み込んだ場合、ユーザーにとってより日常的に自動検出が可能となり、ユーザーの手間を煩わせることなく耳垢の検知や、その他難聴の早期発見を可能にすると考えられる。

Source and Image Credits: Yincheng Jin, Yang Gao, Xiaotao Guo, Jun Wen, Zhengxiong Li, and Zhanpeng Jin. 2022. EarHealth: an earphone-based acoustic otoscope for detection of multiple ear diseases in daily life. In Proceedings of the 20th Annual International Conference on Mobile Systems, Applications and Services (MobiSys ’22). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, 397-408. https://doi.org/10.1145/3498361.3538935



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