漫画で見たくない“地雷シーン”を事前に警告する技術 明治大が開発:Innovative Tech
明治大学は、漫画の読書中に見たくないシーンを予告し事前警告してくれるシステムを提案した論文を発表した。途中で出てくる“グロテスクなシーン”を見たくないなどの個人的に遭遇を回避したい場面だけを避け、作品全体を読み進める読書体験を可能にする。
Innovative Tech:
このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
明治大学中村聡史研究室の研究チームが発表した「コミックにおける読者依存性の高い地雷表現回避手法の実現」は、漫画の読書中に見たくないシーンを予告し、そのページを読むときに回避できるシステムを提案した研究報告だ。
途中で出てくる“グロテスクなシーン”を見たくないなどの個人的に遭遇を回避したい場面だけを避け、作品全体を読み進める読書体験を可能にする。
ここでいう“見たくないシーン”とは、読者一人一人がそれぞれ思うシーンであって、多くの人が一般的に思うシーンではないことに留意したい。
漫画を読んでいると苦手なシーンに遭遇してしまう場合がある。リアルな虫やグロテスクな生首、不気味なお面、親から児童への暴行、動物虐待、洗脳、スナック的な性消費、女性の身体の不自然な強調、いじめ、ペットの死、うつ表現など、人ぞれぞれ苦手な何かがあるだろう。
今回の手法ではこれらの苦手なシーンを「読者依存性の高い地雷」と表現している。現実とは異なり、漫画では例えばグロテスクなシーンなどの地雷に出会うことも多く、また強調して描かれているシーンも珍しくない。過度に感情移入してしまい、閲覧したことで落ち込んだり、その先を読み進めることができない可能性もあるだろう。
タイトルや表紙などから、地雷が予測できるものなら読まないでおこうとなるが、予測できない漫画で読み進める途中で登場すると防ぎようがない。読書意欲の低下につながり、満足のいく読書体験の妨げとなる。
今回はこの課題に対し、電子コミックにおいて、地雷シーンが登場する前に警告してくれるシステムを実現した。
まず人それぞれ地雷は異なるが、世の中には類似した地雷をもつ人もいるため、その地雷に遭遇してしまった最初の人が、読み進める中で任意の地雷フラグを登録できるシステムを実装した。読む前にあらかじめ登録するのではなく、読みながら地雷シーンを登録するユーザーインタフェースを採用している。
実際に複数の参加者から地雷フラグを収集してみた結果、多くはグロテスクやホラーなものなどであった。今回対象にした漫画が主に少年漫画を中心としたため、やや偏った結果となった。
次に、システムではそのユーザーにとっての読者依存性の高い地雷情報と、類似した地雷をもつユーザーがつけてくれた地雷フラグ情報をもとに地雷箇所を事前に警告する。警告は、そのユーザーにとっての地雷を含むページの1ページ前を読む際に別ウィンドウが自動的に開いて行われる。このウィンドウには、次のページに表示される地雷の内容とその位置が表示される。
警告後のページをどう読むのかについてはユーザーに委ねている。例えば、ユーザーが予告された表現を避けたいと感じた場合には目を瞑って読む、ページ送りを早めることでそのページを読み飛ばす、などといった対処が可能となる。
このように電子コミックを読む中で、読者依存性の高い地雷フラグの登録、その登録が類似した地雷をもつ他者へと共有されることによる事前の警告、警告による地雷回避と一連の流れが読書中に全て完結し、ユーザーにとって手間が少ない仕様になっており、助け合いの結果読書体験の向上が期待される。
実際に参加者にこの手法を体験してもらった後のアンケートでは、「操作が簡単だったのでフラグを付けるのも特に負担には感じませんでした」「事前に自分の地雷を知れるから心構えができる」などの感想が得られた。
反対に「予告される地雷が多すぎる場合は毎度別ウィンドウが出てきて集中できなくなる」「いつ来るかハラハラし始めて集中できなくなる」といった負の感想も得られた。
今回はPCでの電子コミック閲覧にとどまったが、今後はスマートフォンやタブレットなどのモバイル端末にも対応したいという。また予告方法もより受け入れやすくするために、読んでいる漫画のキャラクターに登場してもらい吹き出しによるコメント表示をするアイデアも考えているという。
プロジェクトページはこちら。
出典および画像クレジット: 伊藤 理紗, 中村 聡史. コミックにおける読者依存性の高い地雷表現回避手法の実現. 情報処理学会, 研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI), 2022-HCI-199, 39, 1 - 7, 2022-08-15
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