「Apple Watch」が自動車事故まで検出する理由
Appleの新しい「Apple Watch」などに搭載される「衝突事故検知」機能。開発の背景にはユーザーの声があったようだ。
米Appleは9月7日のイベントで「Apple Watch Series 8」を発表し、手頃な価格の基本モデル「Apple Watch SE」も第2世代に更新した。一方で登山家やダイバーなどに向けたタフ仕様の「Apple Watch Ultra」を投入するなど製品の幅を広げた。Appleはそれぞれの製品を明確な目的を感じさせる方向で開発している。
こうしたコンピュータデバイス(スマートウォッチもコンピュータの1つだ)では処理速度など搭載する半導体の性能に注目が集まりがちだが、Apple Watchに関していえばSeries 8は前世代と比べて20%程度の向上と大きく変わったわけではない。常時点灯モード時の明るさが向上したり、最大36時間使える新しい省電力モード(通常は18時間)を設けたりとスマートウォッチとしての利便性を向上させつつ、ユーザーの「命と健康を守る」という路線をさらに強く推し進めた。新しい皮膚温センサーや「衝突事故検知」機能がそれに当たる。
今回は女性向けの健康管理機能について追加機能があった。睡眠時にApple Watchを装着し、手首の皮膚温度を連続5夜以上計測して体温変化の傾向を学習させると、それをもとに排卵周期を推測する機能がSeries 8から使えるようになる。
月経周期の記録機能は3年前に導入されたものだが、体温をベースに排卵を検出することで、家族計画はもちろん体調不良との関連性なども簡単に追跡できるという。
自動車事故を検出、携帯電話回線で通知
これまでもApple Watchは心房細動、転倒など、怪我や命のリスクを伴う可能性がある際にユーザーを助ける機能を積極的に搭載してきた。実際にApple Watchのおかげで病気の早期発見につながったなどと話題になったこともある。
以前、Apple Watchの開発担当役員を取材した際に「Apple Watchのユーザーから意外なほど健康あるいは病気にまつわる『助かった』という感謝のエピソードを聞くことが多く、そこにも注力することにした」という話を聞いたことがある。こうした方向性はAppleも当初から全く意識していなかったわけではないが、予想以上にユーザー側の声が大きかったのだという。
利用者を守るために何ができるか。今回登場したApple Watch Series 8、iPhone 14とiPhone 14 Proシリーズでは自動車の衝突事故を検出する機能を追加した。
衝突を検出するため、Series 8ではモーションセンサーを2つ搭載し、3軸ジャイロセンサーを改良。さらに強い衝撃を検出するため最大256Gまで計測できる加速度センサーも内蔵した。そして人間の動きよりもはるかに早い自動車事故を正確に検出できるように毎秒3000回以上でApple Watchの動きをサンプリングする。これは従来の4倍の速さだ。
センサーの強化だけではない。一口に自動車事故といっても様々なケースがある。Appleは誤通報をなくすため、気圧計、マイク、GPSなども駆使する「センサーフュージョン(センサー情報の融合)アルゴリズム」を構築。100万時間を超える運転のデータと衝突事故のデータを学習させた。
一方、試験場では過去何年もにわたり、自動車が衝突した際にどのようなセンサー情報が得られるのかを研究してきたという。Appleは前面衝突、側面衝突、後面衝突、横転の4種類について、また乗用車やSUV、トラックなど車種による違いなども検証してデータを蓄えてきた。
こうした研究開発により、もしもの時に衝突事故の可能性を検知し、ドライバーがスマートフォンを使えない状況であっても携帯電話網を通じて自動的に緊急通報サービスに知らせる。位置情報を教えることもできる。
最大36時間のバッテリー駆動時間を実現する新しい低電力モードも無関係ではない。このモードは事故の検出や活動追跡といった機能を維持しながら、常時表示や自動ワークアウト検出などを一時的に無効化することでバッテリー持続時間を延ばす。
セルラーモデルで国際ローミングに対応したのもポイント。海外旅行先でも携帯電話ネットワークに接続することができ、契約を持っていなくても緊急通報を行える。
"アクティブ"なユーザー以外にも
Apple Watchは初期の頃から多くのアクティブなユーザーに支えられてきた。健康のために毎日の活動量を計測する人を始め、さまざまなタイプのスポーツをより深く楽しむために使われてきた。Series 8はもちろん、最新のwatch OSが搭載されているApple Watchならその多くの機能が利用できる。
例えばランニングならストライド幅やピッチを表示し、ランの距離はもちろんペースコントロールのアドバイスなどももらえるようになっている。水泳時の泳法自動検出やラップ数、ラップタイムなどのチェックに加え、水泳の開始、終了の自動検出も行えるようになった。
Appleによると8割のユーザーは運動記録のためにApple Watchを使っているという。ただしAppleが重視しているのは、何らかの理由でApple Watchを使い始めたユーザーに、より健康な生活を送ってもらうことだ。だからスポーツ関連の機能と健康を支える機能の両方を強化してきた。
自動車事故の検知機能は多くの人が一生使わないかもしれないし、クルマを持っていない人なら不要だと思うかもしれない。しかし使用頻度が低いからといって軽視はできない。Appleは検出機能の説明にこんな文を添えていた。「出番がないことを願って発明しました」
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