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心音から心不全を分析するAI 精度は最大100% 心臓病を早期発見できるアプリを開発へInnovative Tech

インドのUniversity of KeralaとスロベニアのUniversity of Nova Goricaによる研究チームは、デジタル聴診器と機械学習モデルで心不全の原因となる大動脈弁狭窄症を発見できるサウンドイメージング技術を開発した。

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Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 インドのUniversity of KeralaとスロベニアのUniversity of Nova Goricaによる研究チームが開発した「Unwrapping aortic valve dysfunction through complex network analysis: A biophysics approach」は、デジタル聴診器と機械学習モデルで心不全の原因となる大動脈弁狭窄症を発見できるサウンドイメージング技術だ。

 高いコストが必要な従来の方法である大動脈弁狭窄症の検査が低コストで行えるため、将来的にはモバイルアプリを介して利用できるようにし、高度医療がない地域でも活用されることを望んでいるという。


(左)正常な大動脈弁、(右)欠陥のある大動脈弁。それぞれの音の違いを表した波形(紫色)、音のデータを基にしたグラフ(緑と紫のグラフ)

 大動脈弁狭窄症とは、心臓の4つの弁の内の1つである大動脈弁(左心室と大動脈を隔てている弁)の動きが悪くなり、弁口が狭くなることで全身に血液を送るのが困難になる状態を指す。重症の場合、心不全につながる可能性もある。

 厄介なことに、大動脈弁狭窄症は軽度なものでは症状が現れにくく、徐々に進行するため長期間無症状の時期がある。また大動脈弁狭窄症の診断には高度な技術が必要なため、高度な技術を置いていない病院やクリニックでの診断は難しく早期発見が難しいといわれている。

 研究では、デジタル聴診器で取得した心音データから機械学習モデルで分析を行い弁機能障害を特定する方法を開発した。

 心臓の音は、4つの弁の内の僧帽弁(そうぼうべん)と三尖弁(さんせんべん)が閉じるときに「lub」という音を出し、心室が弛緩(しかん)して血液が充満すると一時停止し、大動脈弁と肺動脈弁が閉じるときに「dub」という2度目の音を出す。この繰り返しによってドクンドクンという鼓動が連続して鳴る。

 しかし、大動脈弁狭窄症になると「lub」と「dub」の音が同時に聞こえるようになるという。健康な心臓とは異なるため、その違いを識別して大動脈弁狭窄症か正常かを判断する。

 音を記録する時間は10分程度、計測した音データを点のグラフに変換してから分析を行う。健康な心臓では2つの明確な点の集まりがグラフに表示されるのに対し、大動脈弁狭窄症にかかった心臓では定義があいまいな分散した点群になる。機械学習を用いてこの違いを分析し、病気のあるものとないものとを分類する。

 評価実験の結果、最大で100%の分類精度を達成したという。信号の強さだけを考慮する他の方法とは異なり、各点の相関関係を考慮に入れているため精度が高かったと考えられる。

 研究チームは、今回のサウンドイメージング技術を心臓だけでなく他の臓器の診断にも応用できると考えている。

Source and Image Credits: Vijayan Vijesh, Mohanachandran Nair Sindhu Swapna, Krishan Nair Satheesh Kumar, and Sankaranarayana Iyer Sankararaman “Unwrapping aortic valve dysfunction through complex network analysis: A biophysics approach” Journal of Applied Physics 132, 084904(2022); https://doi.org/10.1063/5.0102120



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