どんなメロディもバッハ風にするAIサービス 編曲を“巨匠に依頼”した 美しい演奏を聞けるのか?:遊んで学べる「Experiments with Google」(第21回)(2/2 ページ)
入力したメロディをバッハ風やモーツァルト風に演奏するAIサービス「Assisted Melody」を使って、“巨匠”に編曲をしてもらった。果たして、美しい音色を聞けるのだろうか。
いよいよ、かえるのがっしょうを巨匠にアレンジしてもらおう。といっても、打ち合わせも依頼費もいらない。ボタンを1つ押すだけだ。例えばバッハ風にしたいなら、左側のタブから「Bach」を選んで「HARMONIZE」ボタンをクリックするだけでいい。
最初はバッハ風にしてみた。出来栄えはどうだろうか。聞いてみると、確かにバッハ風といえばバッハ風だが、不協和音ばかりで美しいアレンジとは言い難い。しかも、主旋律と伴奏の音量に差がなく、メロディが埋もれてしまっている。
HARMONIZEボタンをクリックする都度アレンジは変化するが、改善する様子はなかった。たまたま1回だけデキが悪いというわけでなく、この程度のアレンジしかできないAIなのかもしれない。
モーツァルト風とベートーベン風も試したが、同じような結果になった。筆者自身の評価としては、とても合格点を与えられないと感じた。皆さんは、どう評価するだろうか。
ベートーベンにシンセサイザーを弾かせてみた
3人の巨匠風にしたアレンジ結果には満足できなかったが、もう少しだけAssisted Melodyで遊んでみる。
アレンジ後の曲は、演奏する楽器が異なっている。バッハ風はオルガン、モーツァルト風はハープシコード、ベートーベン風はピアノを使っている。これら楽器の種類は各巨匠がよく弾いたり好んだりした楽器で、初期設定してあったものだ。
Assisted Melodyでは、演奏時に別の楽器を指定することもできる。選べる楽器はピアノとフルート、シロフォン(木琴)、シンセサイザーのいずれかだ。
ここでは、ベートーベンにシンセサイザーを弾かせてみた。ベートーベンは、ピアノの進化に合わせて次々に新しい演奏に挑戦し、交響曲でも画期的なアイデアを生み出してきた挑戦的な音楽家だ。きっとシンセサイザーの存在を知ったら、大喜びで革新的な音楽を作ったかもしれない。アレンジを実行して聞いてみると、出来栄えは相変わらずだが、そんなベートーベンの探究心に思いをはせるような面白い結果になった。
AI任せより、音楽理論をアルゴリズムに組み込んだほうがいいかも?
AIの開発に取り組んでいる人たちは、AIに「○○風の絵を生成させてみた」「××風の声で喋らせてみた」といった研究成果を披露する。Assisted Melodyは、いわばそうした研究の音楽版だ。
ただし、きちんと機能するAIの開発は簡単でなく、一筋縄ではいかない。適切な内容の学習データを大量に用意しなければならず、学習率といった学習時のパラメーターも試行錯誤で調整する必要がある。
以前の記事では、AIを自作できるWebアプリ「Teachable Machine」を使ってハンドサインを認識するAIを作ってみたが、うまく動かなかった。それは、学習データが不十分だった上に、学習パラメーターの調整を怠ったせいだろう。Assisted Melodyも、学習時の調整が不十分だったのかもしれない。
また、音楽の場合は人間が自然に感じる良さや、美しいと受け止める音の組み合わせは、経験則として体系化されている。ところがAssisted Melodyの出力結果は不自然な和音が多く、そうした音楽理論の成果を活用できていない。平凡だとしても、美しい音楽を生み出すには何もかもAIに任せるのではなく、音楽理論をある程度アルゴリズムに落とし込むのがいいと感じた。
現在のAIは、領域によっては現場で働く職人を超える性能を持つ場合もある。しかしその一方で、まだまだ経験則といった職人技が生きる世界なのかもしれない。
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