電動キックボードの理想と現実 「未来のモビリティ」を潰さないために必要なこと:小寺信良のIT大作戦(1/2 ページ)
多くの報道では、手軽な移動手段として電動キックボードは人気が高まっているとしている。だがその見方は、東京など都市部だけのものだ。
9月25日、東京都内で電動キックボードを運転していた男性が、マンション内駐車場の車止めに衝突して転倒し、頭を強く打って死亡した。電動キックボードに絡む死亡事故は、全国初となる。男性はヘルメットを着用しておらず、また飲酒運転の可能性があるという。
多くの報道では、手軽な移動手段として電動キックボードは人気が高まっているとしている。だがその見方は、東京など都市部だけのものだ。筆者は都市部とはいえない地方市に暮らしているが、電動キックボードを公道で利用している人を見たことがない。利用者がいない理由は後々語るとして、それゆえに電動キックボードの位置付けを比較的客観的に見られるのではないかと思っている。
そもそも電動キックボードの公道走行の可能性について語られるようになったのは、2017年頃のようだ。海外では素の車体のみで公道が走れる例もあったようだが、日本の道路交通法的には原動機付き自転車と同等の扱いになるという判断がでたことから、ウインカーやバックミラー、ナンバープレートなど原付相当の装備があれば走行可能として、こうした車体が登場してきたのが、その頃である。
現在ネットの通販サイトを調べてみると、電動キックボード自体は3万円から10万円越えまでさまざまだが、公道走行可能なモデルとなると、だいたい6万円以上、平均すると10万円前後の車体になるようだ。とはいえ、原付はもちろん電動アシスト付き自転車よりも大幅に安い。新しい交通手段として、コスパはかなり高いということになる。
規制緩和と実証実験
電動キックボードの認知に拍車が掛かったのは、2022年4月に道路交通法が改正され、電動キックボードは「特定小型原動機付自転車」(以下特定小型)という新しいカテゴリーに入る事となったからである。これが施行されれば、現在の原付相当の扱いから、大きく規制緩和されるされることになる。まとめると以下のようになる。
原付 | 特定小型 | |
---|---|---|
免許 | 必須 | 不要 |
ヘルメット | 必須 | 任意(着用は推奨) |
走行場所 | 車道のみ | 車道、自転車レーン、条件付きで歩道 |
速度制限 | 時速30km | 時速20km |
年齢制限 | 免許に準ずる | 16歳以上 |
大きなポイントは、原付免許が不要になった事と、ヘルメットの着用が任意になったことであろう。
一方で車体としては時速20km以下に限定されるため、現在販売されている車体では特定小型に該当しないものも出てくる。また歩道走行するためには、「歩道モード」を備える必要がある。外見から見て歩道モードであることが確認できる仕組み(ライトの色が変わるなど)や、時速6km以下に限定する機能を備える必要がある。走行できる歩道は、道路標識などで自転車通行可が表示されている道となる。
新道交法は2年以内に施行されるため、少なくとも24年4月までにはこのルールの運用が始まる。警察ではこの改正法施行をにらみ、22年4月より特例措置を講じて、エリアと事業者を限定し、実証実験を開始している。
都内23区全域と多摩地区が実証実験エリアになっており、ヘルメットなしで走行する電動キックボードがあるのは、そのせいである。今回の死亡事故で男性がヘルメットを着用していなかったのも、この実証実験地区内だったからである。
特定小型は、原付よりは規制緩和されてはいるものの、自転車やシニアカーよりは上に位置付けられている。従って、自転車でも規制されている飲酒運転は、当然特定小型でもダメという事になる。
にもかかわらず、飲酒運転が多発している状況は、テレビニュースでも取り上げられているところだ。これはなぜなのか。
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