電動キックボードの理想と現実 「未来のモビリティ」を潰さないために必要なこと:小寺信良のIT大作戦(2/2 ページ)
多くの報道では、手軽な移動手段として電動キックボードは人気が高まっているとしている。だがその見方は、東京など都市部だけのものだ。
拡大する利用イメージのズレ
今回死亡事故を起こした車両をレンタルしていたのは、LUUPという事業者である。事業は東京を中心に、横浜市、京都市、大阪市、仙台市で展開しており、実証実験事業者としても23区全域で行なっている。現時点ではもっとも大手の事業者といえるだろう。
東京23区でのレンタルポートのマップを見ると、幹線道路というよりは、JRや私鉄、地下鉄といった路線に沿った格好で展開しており、東京特有の「電車移動のあと」の、ラスト1マイルの足としての利用を想定しているように見える。
実際東京でどこかへ行こうとすると、その目的地までは最寄り駅から徒歩15分程度であることが多い。徒歩で15分はまあまあダルいわけだが、タクシーに乗るほどでもなく、それぐらいなら仕方なく歩くのが普通だ。だがそこを新しいモビリティがカバーするのであれば、利用したいところである。
電動キックボードは立ち乗りなので、それほど長距離を移動するのには向いていない。人はただ立っていても、体重を右足にかけたり左足にかけたり、何かに寄りかかったりして体重を分散させている。一方キックボードは乗車スタンスが固定されるし、体重移動もままならない。よって位置固定の立ちっぱなしなら、せいぜい連続運転では15分ぐらいだろう。
例えば時速15kmで15分走ると、約3.7km。実際には信号待ちなどもあるだろうから、1ライド3kmぐらいがせいぜいではないだろうか。途中休憩しながら乗ればもっと行けるのだろうが、そこまでするなら別の手段を考えた方がマシである。とはいえ、仮に徒歩で3kmも歩くとなれば、45分ぐらいはかかる距離である。1ライド最高15分でも「徒歩ではさすがにダルい」を埋める距離としては、十分である。
ただこれは昼間の話で、夜になると利用方法が変わってくる。繁華街から酔っぱらって歩くのがダルいとか、急がないと終電逃しそう、という人が「お、ちょうどいいのがあるネ」と利用してしまうようだ。つまり昼と夜で、想定される利用イメージがかなり大きくズレる。それがレンタル電動キックボードの実態ではないだろうか。
電動キックボードが地方に向かないわけ
新しいモビリティとして期待大の電動キックボードだが、地方においてはレンタル事業も展開しておらず、個人で所有している人もほとんど見かけない。これはある意味、人口やカバーエリアの問題から事業性が低いという事も理由の1つだろうが、ハードウェアとしても当然の結果だろうと思う。
まず電動に限らずキックボード全体にいえることだが、タイヤ径が小さいため、大きな段差が乗り越えられないという弱点がある。しかも径が小さいとそれだけ小さい範囲に体重を含む重さが集中するので、ちょっと緩い地面ではタイヤがめり込んで前に進めなくなる。
地方では舗装はそこそこされていても、道路のコンディションは必ずしも良好とはいえず、路肩が石だらけだったり、段差や穴、路肩の崩れなどがまあまあある。自転車で走行していても、「あぶねー」と思うことがしばしばあるのに、自転車相当の速度が出る小さい車輪の電動キックボードが安全に走行できるとは思えない。
地方では、免許返納後の高齢者の足として、新しい移動手段が求められているところではあるが、立ち乗りが前提の電動キックボードは、高齢者には向かないだろう。加えて荷物が積めるわけでもないので、買い物の足としての利用にも向かない。
一方で電動のシニアカーは、走っているのをよく見かける。時速3kmぐらいしかでないし、4輪なので安定性も高い。またタイヤ径もまあまあ大きく、車道と歩道の小さい段差ぐらいなら問題ない。加えて後ろに荷物入れもあることから、通院や買い物の足として人気がある。地方では、警察庁区分で言うところの「歩道通行車」のほうが発展しそうだ。
都市部では、電車を降りれば徒歩しかないという現状を打破するものとして、電動キックボードはビジネスとして芽があるのは理解するところである。現在は飲酒運転対策として、アカウント作成時のテストなどを強化するとも言われているところだが、単純に夜間はレンタルを停止するぐらいで効果があるのではないかと思われる。
テレビ報道を見ると、酔客が「自己責任だから」として利用しているようだ。しかしこれは、自分がケガしたり警察に捕まったりするだけでは済まない。そうした事故・事件件数の積み上げが、未来のモビリティ像を傷つけることになり、正しく利用している人もどんどん利用しづらくなる。
実証実験中の今が、一番大事な時期ともいえる。現在利用されている方は、未来の可能性を自分が握っているのだということに、十分留意していただきたいと思う。
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