どうなる「1円スマホ」 動き出す公取委と“セット販売復活”を模索するキャリア(3/3 ページ)
政府の規制によって一時は姿を消した、「一括1円」など極端に安い値段で販売されるスマートフォン。だが2021年の半ば頃から、再びスマートフォンの大幅値引きが多く見られるようになった。
法律で禁止されたセット販売、復活はなるか
一方の携帯各社からしてみると、法改正によってユーザーの契約も解約も自由になったことで奪い合い競争は激化しているだけに、顧客獲得の非常に強力な武器となる値引き販売を簡単に止める訳にはいかないようだ。実際1円スマホの問題は携帯大手3社だけでなく、新規参入で赤字であるはずの楽天モバイルまでもが展開しており、携帯4社全てが関わる問題となっている。
また、22年11月に実施された各社の決算説明会でも「社会現象として良くないと認識しているので是正したいが、1社単体では難しい」(ソフトバンク代表取締役社長執行役員兼CEOの宮川潤一氏)、「他社がやればやり返すのが業界の習慣になる」(井伊氏)といった声が聞かれた。自社だけが値引きを止めれば他社に顧客を奪われてしまうので、一度どこかが始めてしまうと止めるのが困難なものでもあるようだ。
そうしたことから各社ともに、行政が介入して全ての携帯電話会社が一斉に大幅値引きを止めることには「賛成」との姿勢を示していた。それゆえ1円スマホの問題に対処する上で注目されるのは公正取引委員会、そして総務省の動きということになるだろう。実際22年10月25日に再開した「競争ルールの検証に関するWG」でも、課題の1つとして1円スマホの問題が取り上げられており、今後その対処に向けた議論が本格的に進められるものと考えられる。
ただ仮にスマートフォンの大幅値引きが何らかの形で規制されたとしても、現在のように円安が大幅に進んでいる状況下では、海外との差益を目的としてアップルの「iPhone」など海外で人気のスマートフォンを転売ヤーが買い占める動きはなくならないだろう。転売ヤーの問題を根本的に解消する上でも、今後の議論で注目されるのはスマートフォンと携帯電話回線のセット販売の復活に関してだ。
先にも触れた通り、現在セット販売は改正法で厳しく規制されているが、セット販売が認められていた法改正以前は、携帯電話回線の契約がスマートフォン大幅値引きの条件となっていた。値引きされたスマートフォンを大量に買い占める行為そのものが、セット販売によって防がれていた側面もあるのだ。
そうしたことからセット販売の復活が問題解決につながるとしているのがNTTドコモだ。実際井伊氏は先の会見で「端末と(回線を)セットで売るのが仕事だと思っている。端末だけを売るのはキャリアの仕事ではない」と言い切った上で「一定のルールを決めて(セット販売を)進めるべき」と話し、値引きに一定の規制を設けながらもセット販売を復活させるべきだと主張している。
そうした主張に他社が同調するかは現時点で不明なうえ、法律でセット販売を厳しく規制した総務省が素直に復活を認めるとも考えにくい。だが法改正による市場競争の激化が1円スマホと転売ヤーに関する一連の問題を招いたのは確かで、総務省が理想とする競争環境を追及する姿勢に問題はないのか、何らかの見直しがなされて然るべき時期に来ているのではないかと筆者は感じている。
関連記事
- 公取委、“1円スマホ”の緊急実態調査 「不当廉売につながるおそれ」
公正取引委員会は、携帯電話端末のいわゆる「1円販売」など極端に安い価格で販売する方法の緊急実態調査を行う。同委は「通信料金と端末販売代金の分離下においては、不当廉売につながるおそれのある販売方法」と指摘している。 - 深刻化するスマホの転売問題 「転売ヤー」に隙を与えたのは誰なのか
スマートフォンの大幅値引き販売が復活したことで、いわゆる「転売ヤー」による人気スマートフォンの買い占めが携帯電話業界で問題となっている。その背景と対処について考えてみたい。 - スマホの転売ヤーを「望ましいものではない」と総務省 携帯キャリアと対策検討
総務省が携帯キャリア業界における“転売ヤー”問題の現状と対策方針を公開した。転売ヤーについて「社会的に見て望ましいものではない」として継続的な対策を検討していく。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.