UUUM子会社のスマホゲームが“3大クラウド”を全部使う理由 「脱獄ごっこ PRO」を支えるクラウドインフラ
UUUM子会社・LiTMUSが提供するスマホ向けゲーム「脱獄ごっこ PRO」。同作の続編が、インフラに“3大クラウド”を全部採用した理由とは。
YouTuber事務所として知られるUUUMの子会社・LiTMUS(東京都港区)が提供するスマートフォン向けゲーム「脱獄ごっこ」。一般ユーザーだけでなく、YouTuberによるゲーム実況での利用も想定した作品だ。2019年にリリースして以降、MAUは最大で約70万人を記録。22年8月にはダウンロード数1000万を突破したという。
一方で、LiTMUSの戸塚友さん(CXOプロデューサー)によれば「もともとすごい小規模で開発したゲームで、拡張性が低く、将来性がない」問題もあった。そこで同社は2022年11月、「ドラゴンクエストタクト」などを手掛けるゲーム企業・Aiming(東京都渋谷区)とタッグを組み、後継作品「脱獄ごっこ PRO」をリリース。現在、脱獄ごっこと並行して提供しており、順次ユーザーに移行を促している段階という。
実はこの脱獄ごっこ PRO、開発に当たっては、AWS、Azure、Google Cloudと、いわゆる“3大クラウド”といわれるサービスを全て活用するマルチクラウド構成を採用している。各クラウドの強みを生かせる一方、サービス間の連携や運用が煩雑になりがちな弱点もあるマルチクラウド。脱獄ごっこ PROで3つのクラウドを併用することにした背景には、UUUM傘下の企業ならではの理由があった。
戸塚CXOが一人で開発、ユーザー数に伸び……も、今後に課題
脱獄ごっこは、プレイヤーが「市民」と「人狼」の2チームに分かれて競う対戦ゲームだ。どちらのチームが先に相手の陣地を壊せるか競うモードや、人狼側が市民のふりをして、市民の行動を妨害するモードなどが存在する。
もともとは、YouTuberがYouTubeにアップする動画を作るためのゲームとして開発したと戸塚CXO。開発も戸塚CXOが一人で行った。リリース後、動画を繰り返しアップしてもらうことで徐々にユーザーが集まったという。
ただ、規模の拡大につれてある課題が浮き彫りになった。そもそもが一人で開発したゲームなので、ユーザーが集まったとしても、今後の展開がしにくかったという。
「LiTMUS自体が、ヒットしたUUUMのオンラインゲームをIP化したいという思いで立ち上がった企業。端的にいってしまえば、UUUMを含め開発会社ではないので、開発陣も僕1人しかいない。UUUMは世間的には『YouTuberの会社』という認知が強く、LiTMUSにも知名度が高いわけではなかったので、採用も難しい。その中で開発の規模を拡大していくのは無理があった」(戸塚CXO)
そこでAimingとタッグを組み、後継作品として脱獄ごっこ PROをリリースすることを決めたわけだ。Aimingと協力した背景については「社長同士の仲が良かったり、運営型のゲームにも強かったりと、互いにニーズが一致した」(戸塚CXO)
オリジナルはAzure「PlayFab」活用 「PRO」はマルチクラウドに
2社による脱獄ごっこ PROのプロジェクトは22年2月にスタート。基本的にはLiTMUSがマーケティングを、Aimingが開発運営を手掛ける形で進んだという。もちろん、提供基盤もAimingが手掛けることになった。
戸塚CXOによれば、オリジナルの脱獄ごっこはAzureのゲーム開発向けバックエンド支援サービス「PlayFab」を活用して提供していたという。「当時は『ニフティクラウド』や『GS2』といったゲームサーバのサービスがあったが、過去に利用経験があったことや、コストの観点からPlayFabを選んでいた」(戸塚CXO)
後続となる脱獄ごっこ PROでも同様に、ゲームの提供基盤にはPlayFabを採用した。一方で、ゲームの提供そのものに関わらない周辺的な分野にはGoogle CloudとAWSを使うことに。Aimingの野下洋さん(インフラマネージャー)によれば、Aimingでの活用実績を踏まえた判断だったという。
「脱獄ごっこを参考にしながら進めたプロジェクトなので、Azure(Playfab)の利用についてはあえて変える必要性はなかった。一方で、AimingではKPI分析などの領域においてAWSやGoogle Cloudの活用に実績があった。こちらもあえて変える必要はないだろうと判断したので、結果としてマルチクラウド構成になった」(野下さん)
ゲームはAzure、分析はGCP、ログ保存はAWS サービスの使い分けは
実際の構成は、ゲームやゲーム内機能の提供にはPlayFabやAzure、ログ分析の領域にはGoogle Cloudを活用する形に。基本的にはPlayFab・Azureで集めたデータをGoogle Cloudのクラウドデータウェアハウス「BigQuery」で分析する仕組みという。
ただ「PlayFabを使うと、ログがAzure上に出力される。これをどうやってGoogle Cloudに送るか悩んだ。AWSのストレージサービス『Amazon S3』であれば直接書き込み・読み込みがしやすかった」(野下さん)ことから、ログの保存にはAWSを活用した。
本来、サービス間の連携などに課題もあるマルチクラウドだが、今回はさほど苦労しなかったと野下さん。Aimingではインフラ構成をソースコードとして管理できるツール「Terraform」を導入しており、同社で過去に使った構成はほとんど時間をかけず再現できるようにしているという。
これによりインフラの構築にはあまり時間をかける必要がなく「むしろコードとして管理している構成を、他の単一のクラウドに書き直すほうが大変」(野下さん)だったことから、マルチクラウド構成の方が手間が掛からなかったとしている。
ユーザー移行と並行して機能拡充へ 脱獄ごっこ PROのこれから
プロジェクトは22年2月に開始。「極論、1作目の脱獄ごっこは化石みたいなゲームなので、いつアプリストアから排除されてもおかしくない状況だった」(戸塚CXO)こともあり、約9カ月でリリースにこぎつける必要があった。タイトなスケジュールだったが、もともとベースとなるシステムがあったことや、Terraformの活用などにより、予定通り進行できたという。
脱獄ごっこ PROのリリース後も安定して運用できており、ユーザー数も増加傾向にあるとしている。ただしAimingの板垣翔太さん(ディレクター)によれば、現状の脱獄ごっこ PROは「脱獄ごっこのベースの面白さや基本ルールを優先している状態」で、新しく盛り込みたい機能はまだ充実しきっていないという。今後は脱獄ごっこ PROならではの遊び方ができるよう、新機能などを拡充することで、脱獄ごっこのプレイヤーを移行させていく方針だ。
「ゲームルール的には1作目の脱獄ごっこと同じ遊び方ができる状態。ここにユーザーコミュニティー機能や、配信者が実況しやすいモードなどを盛り込んでいこうという話をしている」(板垣さん)
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