パナソニックの録画用ブルーレイディスク生産完了と、宙に浮く「録画補償金」:小寺信良のIT大作戦(2/2 ページ)
パナソニックが録画用Blu-rayディスクの生産を完了すると発表した。見逃し配信の充実やYouTubeなどの台頭などからBlu-rayディスクの需要は落ちている。そんな中、2022年8月に急きょ持ち上がった「録画補償金」の復活だったが……。
10年ぶりに制度を動かすことになるが……
録画補償金は、東芝録画補償金裁判がスタートした2010年ごろから徐々に動かなくなっていき、2012年のアナログ放送停波で完全に停止した制度である。この10年で、いろいろなことが大きく変わってしまっている。
録画補償金を管理・分配していた私的録画補償金管理協会(旧SARVH)は、すでに2015年に解散している。そこで、残っていた私的”録音”補償金管理協会(SARAH)を、私的”録音録画”補償金管理協会に名称変更し、録画補償金の受け皿として文化庁から指定されている。ただ受け取る側の体制はできたものの、サイトの説明には「補償金の額や徴収方法等については現在未定となっております」とある。
録画補償金を払うのは、消費者だ。購入時に価格に上乗せという形で支払い、メーカーへの収入から電子情報技術産業協会(JEITA)が取りまとめる形で、管理団体に支払う事になる。これにはまず、レコーダー1台につきいくらなのか、あるいは価格の何%なのかといった、料率を決めなければならない。これを決めるのは、私的録音録画管理協会とJEITAである。
22年10月21日に閣議決定して施行令も改正されているので、何も話をしていないということはないだろうが、料率が決まったという話も聞こえてこない。そもそもレコーダーの出荷台数は、2022年の実績を見ても前年比を超えた月は1度もなく、前年比の76.9%となっている。
ハードウェアとしても、ある意味「終息」が視野に入っている分野である。とはいえ、過去の映像資産の継承といった需要がないわけでもない製品を、今のうちから早々に製造終了にするのも、消費者ニーズを反映していないという事になる。
そんな中、メディアのほうはもういいだろうという、パナソニックの撤退はビジネスとしては妥当な判断といえる。録画補償金を払うのがイヤだから撤退、というのは、さすがにちょっとうがちすぎだろう。
これでメディアを国内生産しているのは、ソニーのみとなる。宮城県多賀城工場は、3層や4層といった特殊ディスクの製造技術があり、他に作れるところもないので、ある程度の需要が見込める限りはやり続けるだろう。一般的な1層や2層ディスクは台湾や中国メーカーが作っており、今すぐ入手難になるわけではない。
とはいえ、メディアの補償金は誰が集めるのか、という話も解決していない。過去メディアの補償金を取りまとめていた日本記録メディア工業会は、録画補償金制度が動かなくなった翌年の2013年3月という早い段階で、すでに解散している。
こちらの取りまとめも、JEITAがやるのだろうか。現在メディアを販売しているソニー、日立マクセル、バッファローあたりはJEITA会員だが、台湾・中国メーカーはどうするのだろうか。やれる範囲でということになるのだろうか。過去の例からも、おそらくハードウェアよりメディアの方が販売は長く続くと思われるが、誰がどうやって徴収するのかも、実際には話が詰まっていないものと思われる。
家庭内において、記録型Blu-rayという技術は、もうそれほど需要がなくなってきているのは明らかだ。ITの世界でも、容量の問題からもうバックアップ手段としてはそれほど重要視されていないものと思われる。あとは過去のディスクが再生可能なプレーヤーや、データが読み出せるドライブという格好でしばらくは延命するかもしれないが、それもあと数年の話ではないだろうか。
録画補償金も、仕組みや料率でもめている間に、Blu-ray製品自体が市場なくなってしまう可能性もある。強引に押し切っての導入だったが、案外文化庁も結局動かないままで終焉というシナリオは、織り込み済みだったのかもしれない。
【修正履歴:1月31日午後2時30分 初出時、Blu-rayレコーダーの出荷台数を年計で76.9%減としてましたが、正しくは前年比の76.9%だったため該当箇所を修正しました。】
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