検索
連載

「バッグを持ち歩かない人のバッグ」に込めたアイデアとは デザイナー・秋田道夫さんに聞く分かりにくいけれど面白いモノたち(3/3 ページ)

LED薄型信号機や“Suicaチャージ機”など、多くの人が目にする製品を手掛けてきた著名プロダクトデザイナーの秋田道夫氏。そんな秋田氏が、大阪のカバンメーカー・トライオンとのコラボレーションで作ったバッグ「Nothing」は、そのシンプルな見た目とは裏腹に、中々に複雑な内容を含んでいた。

Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

 多分、この「Nothing」は、そういった使われ方が向いているように思うのだ。必要最小限、例えば、手帳とスマホ、バッテリーとケーブル、あと小ぶりの水筒に筆記具くらいだけを入れて遊びに行く。そういう使い方がとてもカッコよくキマる。ポケット沢山の機能優先のバッグにはない、持って歩いていること自体が目的になるようなバッグなのだ。


抱えて持っても、この大きさと軽さのおかげで、形がキマる。上部が開いているので、デパートなどで買ったかさ張るものも、ポイポイ放り込める気楽さが楽しい

 秋田氏は、「バッグを持ち歩かない人のバッグ」を作りたいと思ったそうだ。実際、秋田氏自身が手ぶら派であり、持ち歩くとしても、エコバッグのようなものに、必要最小限のものだけを入れて出掛けるそうだ。

 つまり、これはファッショナブルなショッパー的なルックスを持ちながら、昭和のおじさん達が手放せないまま、リニューアルされず、ダサいアイテムとして一部で細々と使い続けられている「セカンドバッグ」の、未来的な展開でもあるのだ。このバッグの軽さとスマートさは、セカンドバッグ的に使われることで、機能性も発揮する。従来、セカンドバッグに入れていたようなものだけを入れて、行きつけの飲み屋に行けば、昭和のおじさんは、一挙にダンディなおじさんになる。このバッグの大きくて存在感はあるのに邪魔にならない感じが、セカンドバッグ的なポジションをリニューアルするのに似合うのだ。


革自体が柔らかいから、こんなふうに広がる。それこそ、暑い日に脱いだ上着なんかも入れられる。スマートな外観こそ崩れるが、その気になれば、大容量のバッグになるというのも面白い。底板は中が見やすいように、赤と青のリバーシブルになっている

 セカンドバッグであると同時にショッパーでもあり、しかもそれが革製なのに柔らかいということは、かさ張るものを突っ込んでも、それなりに入ってしまうということでもある。もちろん、そういう使い方をすると形は崩れる。いつもそういう使い方をすれば、大きく型崩れして自立しなくなったり、革に変なシワやクセがつくかもしれない。

 しかし、この使い方はデザイナーの秋田氏も実際に行っている使い方なのだ。そんな風に気軽に、フレキシブルに使って欲しいと秋田氏は言う。ただ、これだけキレイな革で、直線が美しい端正なバッグを、エコバッグみたいに使うのは、中々抵抗がある。

 「使う人に、少しだけ緊張感を持ってもらいたいというのは、私のデザイン全般に言えることです。『品』というのは、そういうところから生まれると思うんです」と、秋田氏も言っているのだけど、その上で、道具として、好きに使って欲しいとも考えているそうだ。


「Nothing」を抱える秋田道夫氏。A3サイズなのに、持ってみると案外コンパクトに見えるのも、このバッグの面白さだ

 緊張感のあるデザインで、エッジが立っているように見えて、しかし柔らかくて軽くて、エコバッグやセカンドバッグ的に使える。革のブリーフケースとしてオーソドックスにも見えるルックスなのに、本質は紙袋的で、暑い日に着ていたパーカーを詰め込むような使い方も出来る一方で、きちんとケアしないと型崩れしやすかったりもする。

 この相反する要素がギッチリと詰め込まれたバッグが、とてもスマートでおとなしい佇まいだという不思議。多分、こういうバッグは、メーカーのレギュラー商品としては出てこないと思う。この面白さが分かる人が沢山いるといいなあ。


ドレッシーなようで、軽快に作られているので、仕事で使っても街の風景に溶け込んでくれるから、持ち出しやすい。ちょっと長めのハンドルが手首に引っ掛けやすいのも使いやすいのだ
前のページへ |       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る