問われるメタバースの“倫理観” 「子供向け広告ゲーム」や「人種の偏り」など白黒つけられない案件も表面化:ウィズコロナ時代のテクノロジー(2/2 ページ)
さまざまな企業が注目をしているメタバース。一方、技術の悪用を懸念する声が上がっている。事件性の高い悪事は徐々に規制されつつあるが、黒か白かはっきりできないような事案もある。そんな「メタバースにおける倫理」について2つの事例を紹介する。
人種的な偏りを見せるメタバース
もう一つ、興味深い指摘を紹介しておこう。ブロックチェーンと暗号通貨の専門家で、Web3とメタバースに関するコンサルティングも行うメラヴ・オゼール博士が、Nasdaqの公式サイトに「メタバースにおける倫理の価値(The Value Implications of Ethics in The Metaverse)」と題された記事を寄稿。次のように主張している。
「メタバースでは、創作の自由が制限されないため、誰でも好きなアバターを使って自分のアイデンティティーを構築できる。しかし、全てのアバターが同じように求められているわけではない。調査によると、肌の色が黒く、女性のアバターはユーザーからの需要が少なく、メタバースにおける人種や性別の表現について懸念がある。これは特定の人々のアクセス不足とも関係している可能性がある」(メラヴ・オゼール博士)
つまり今メタバースにアクセスできる人々の多くは、先進国に住み、経済的に余裕がある人物であるため、人種や性別に偏りが生じている可能性があるというわけだ。それが過度に定着してしまうと、今後ユーザー(現実の人々)の人種や性別の多様性が広がっても、それを排除するような文化が生まれてしまうかもしれない。
そんなの心配し過ぎだろう、と思われるかもしれないが、既にこの「メタバースと人種」という議論は各所で見られるようになっている。そして前述のようにアバターの見た目や、ユーザーの偏りに関する懸念だけでなく「現在のメタバース系サービスの多くが白人男性中心のチームによって開発されており、彼らの無意識の偏見がメタバース空間に反映されているのではないか」という指摘もある。
黒人向けメディア企業である米Blavityのジェフ・ネルソンCTOは、CNBCの取材に対し、「歴史的に被害や虐待を受けてきた人々や、心の片隅に秘密を抱えて生きていかなければならない人々がテーブルについていない場合、彼らを守るような形でプラットフォームを構築することはできない」と話した。
さらに「他者に危害を加えようとする人々が利用でき、かつ、それを大規模に行うことができるプラットフォームが構築される」と警告している。
もちろんそれを是正するために、女性や有色人種の開発者やユーザーをいきなり増やすことができるかというと、それも難しい話だろう。即効性のある特効薬は無いと認識し、倫理的な問題は常に起こり得ると心に留めた上で、サービスの設計や開発、利用を進めていくしかない。
ここで取り上げたのはメタバースの事例だが、同じような「確定していない倫理的問題」は、他の先端的なデジタル技術でも発生しつつある。有名なのはAI倫理の領域で、各国や各企業が独自の「AI倫理観」を掲げてアプローチを模索している状態だ。
ウィズコロナ時代は、さらに多くの先端技術が普及すると考えられる。従ってこうした倫理を巡る問題にも並行して取り組むことを、企業や政府、自治体は余儀なくされるだろう。
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