NECが「SFプロトタイピング」実践 “SFのビジネス活用”が生む効果とは? 企画者が語る「相性の良さ」:「SFプロトタイピング」で“未来のイノベーション”を起こせ!(1/3 ページ)
NECが、ビジネスにSFを活用する「SFプロトタイピング」に取り組みました。イベントの他、社内2000人超のワークショップも開催し、アイデアが湧き出しました。企画者はブランディング施策として大成功だったと話します。
こんにちは。SFプロトタイパーの大橋博之です。
この連載では、僕が取り組んでいる「SFプロトタイピング」について語って行きます。SFプロトタイピングとは、SF的な思考で未来を考え、SF作品を創作するなどして企業のビジネスに活用するメソッドです。
今回はNECさんが実践したSFプロトタイピングの事例を紹介します。同社は2022年10月21日、J-WAVEが主催するイベント「J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA 2022」において、企画セッション「SFが描くワクワクする未来〜SFプロトタイピングがイノベーションを生む〜」を実施しました。
セッションはJ-WAVEのサッシャさん(J-WAVEナビゲーター・キャスター)の進行のもと、SFプロトタイピングを行っている宮本道人さん(科学文化作家)がファシリテーションし、そこにNEC社員の海老沢美佐子さん(グローバルトランスポートインテグレーション統括部 シニアディレクター)と八巻千夏さん(スマートILM統括部)が参加して行われました。
NECの2人が「趣味の言葉」として「鍼灸・マッサージ」「コンビニ新スイーツ試し買い」「動物園」「猫」などを挙げ、次に「未来の言葉」として「宇宙旅行」「ホログラム」「ロボット」など挙げました。そこから両方の言葉を掛け合わせて「試し買い旅行」「ロボット動物園」「ホログラム猫」「鍼灸宇宙」という新しいガジェットを生み出しました。そして、そのガジェットを基に「それはどのようなもので、どう使うのか?」などを議論し、それを通じてSFプロトタイピングがビジネスに変革を起こしていく可能性が提示されました。
このセッションを企画したNECの塩野入匡宏さん(エンタープライズ企画統括部 マーケティングBPグループ マネージャー)、杉山浩史さん(エンタープライズ企画統括部 シニアプロフェッショナル)、冨成裕輔さん(エンタープライズ企画統括部 マーケティングBPグループ プロフェッショナル)、田中美和子さん(エンタープライズ企画統括部 マーケティングBPグループ プロフェッショナル)、徳成桃子さん(エンタープライズ企画統括部 マーケティングBPグループ)に、ゲストとして西田藍さん(アイドル、モデル、エッセイスト、ライター、書評家)を交えてお話を伺いました。
NECエンタープライズ企画統括部
製造業や流通・サービス業、金融業、交通・物流業などの民需企業向けに長年に渡りシステム・サービスを提供するビジネスユニットの中でマーケティング、ブランディングといったユニット横断的な機能を提供する部門。
西田藍
アイドル、モデル、エッセイスト、ライター、書評家。
2012年、講談社が主催するアイドルオーディション「ミスiD2013」で「ミスiD」に選出される。以後、雑誌「サイゾー」や「ダ・ヴィンチ」等で書評やエッセイ等を中心に活動する。2014年、ミスiD2013-2015として「TOKYO IDOL FESTIVAL2014」出演。「SFマガジン」2014年10月号(早川書房)にて表紙グラビアを飾る。2015年よりSFマガジンで「にゅうもん! 西田藍の海外SF再入門」を連載中。
「ブランドをエモーショナルに伝える」 気付いたSFプロトタイピングの良さ
※以下、敬称略。
大橋 NECエンタープライズ企画統括部について教えてください。
塩野入 われわれは製造業や流通・サービス業、金融業、交通・物流業などのマーケットのお客さまと一緒に、デジタルテクノジーをベースに未来の創造を推進するビジネスユニットの一部門です。ユニット横断でマーケティングやブランディング、プロモーションを展開しています。
NECでは「NEC 2030VISION」を掲げ、社会価値創造型企業を目指しています。NECにはお客さまとの長年のお付き合いで培ってきたさまざまなシステム構築のノウハウがあります。そうしたノウハウやテクノロジーを活用して、お客さまのパートナーとして一緒に社会課題の解決に取り組んでいます。これらを通して幅広い業種をつなげ、総合的な価値を発揮できるよう努力しています。
西田 今日は、SFファンの一人として参加させていただきました。制服の少女やSFに出てくる美少女のステレオタイプを逆手に取ったエッセイなどを書いています。
大橋 J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA 2022において「SFが描くワクワクする未来〜SFプロトタイピングがイノベーションを生む〜」と題したセッションを実施することになった経緯などを教えてください。
冨成 J-WAVEさんは毎年、音楽とテクノロジーの祭典「INNOVATION WORLD FESTA」を開催しています。2022年からビジネスパーソン向けウェビナー「イノフェスビジネスデー」を初開催するので参加しないかと打診がありました。われわれビジネスユニットが担う分野のブランディングとシナジーがあるかもしれないと考え、話を進めていきました。
当初テーマは決まっておらず、「ワクワクする未来を創造する」という方向性からWeb3.0などディープテックなアイデアが出る中、一番良いと思ったのがSFプロトタイピングでした。
大橋 SFプロトタイピングのどこが良いと考えたのですか?
杉山 メンバー間で伝えたいブランドコンセプトを立てた際、NECが打ち出す「Value Chain Innovation」という考え方もあるものの、コミュニケーションに立ち返り「NECと一緒だとワクワクすると感じて、ファンになってくれたらいいね」と話し合っていました。そこから「SFだとワクワクするよね」、そしてイノフェスビジネスデーはラジオではなく、スタジオで収録して、視覚的なチャレンジを行うウェビナーと聞いたので「それもワクワクする」。その両方からSFプロトタイピングをテーマにJ-WAVEさんのイベントに加わることにしました。
冨成 ブランドをロジカルに語るのではなく、エモーショナルに感じてほしいと考えていました。もちろん内容は大事ですが、J-WAVEさんはXRの技術を使うというので、新しい方法で、直感的に、そしてエモーショナルに伝えられる。そこにSFプロトタイピングは相性が良いとも考えました。
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