LIXILがSF小説を公開 「今の未来予想を白紙にしたその先を見たい」 イノベーションに挑む事業部を追う:LIXIL×SFプロトタイピング【前編】(1/2 ページ)
LIXILが、イノベーション推進プロジェクトの中でSF小説を公開しました。SFをビジネスに活用する「SFプロトタイピング」を取り入れたものです。その背景を取材しました。
こんにちは。SFプロトタイパーの大橋博之です。
この連載では、僕が取り組んでいる「SFプロトタイピング」について語って行きます。SFプロトタイピングとは、SF的な思考で未来を考え、SF作品を創作するなどして企業のビジネスに活用するメソッドです。
今回はSFプロトタイピングの実践事例として、住宅設備機器や建材を手掛けるLIXILの取り組みを2回に分けて紹介します。
同社では2022年にイノベーションプロジェクト「未来共創計画」でSFプロトタイピングに取り組み、2023年2月15日に特設サイトを開設しました。完成したSF小説を公開するとともに、それを基にしたアイデアコンテスト「FUTURE LIFE CREATIVE AWARD」を実施中です。
前編では、同社がなぜSFプロトタイピングを採用したのか、どのような成果物が出来上がったのかなどを紹介します。
お話をお伺いしたのは、LIXILの取り組みを主導した羽賀豊さん(LIXIL Housing Technology ビジネスインキュベーションセンター センター長)と浅野靖司さん(LIXIL Water Technology Japan 事業企画部 部長/新規事業プロジェクト リーダー)、そしてSFプロトタイピングをサポートしたコンサルティング会社・アノン(港区)の森竜太郎さん(代表取締役)です。
※取材は、SF小説の完成前かつ特設サイト公開前に実施しました。取材後、記事の内容を一部アップデートして掲載しています。
新規ビジネスに取り組む3人のミッション
※以下、敬称略。
大橋 早速ですが、羽賀さんと浅野さんのお役職が大変興味深いので、ぜひお2人のミッションを教えてください。
羽賀 私は、LIXIL Housing Technologyで新規ビジネスを推進するビジネスインキュベーションセンターを立ち上げ活動している他、窓やドア、エクステリアなどのプロダクトデザインを担うデザイン部門や、ハイエンドブランド「NODEA」の責任者を務めています。
浅野 私はLIXIL Water Technology Japanで新規事業プロジェクトを手掛けています。5年半ほど前に新規事業推進部を創部し、ウオーターテクノロジーにおける新たな価値の創造やビジネスモデルの変革といった領域にチャレンジしてきました。いまは事業戦略の立案やイノベーションの創出など担当しており、並行して4〜5つの新規事業プロジェクトのリーダーを務めています。
大橋 お2人とも新規ビジネスを任されているのですね。では、LIXILさんのSFプロトタイピングをサポートした森さんも自己紹介をお願いします。
森 私はアノンという会社の代表を務めています。アノンの事業は戦略コンサルティングがメインで、特にイノベーションコンサルティングが専門です。イノベーションを推進する際に取りあえず新規事業を立てるケースが多いですが、前提にしっかりしたビジョンがなければ、イノベーションの軸がぶれてしまいます。大胆かつ挑戦的なビジョンを作り、新規事業にエッジを効かせていく。そこに挑戦する中で、SFプロトタイピングの手法も使いながら企業コンサルティングをしています。
新規事業に「違う視点で取り組んでみよう」 行き着いたSFプロトタイピング
大橋 では本題に入ろうと思います。SFプロトタイピングにどうして取り組むことになったのでしょうか?
浅野 私と羽賀さんで新規事業を推進する中で「違う視点の取り組みをやってみよう」となり、方法を模索する中でSFプロトタイピングに出会いました。SFプロトタイピングについて詳しくはありませんが、一部の民間企業から農林水産省といった行政まで活用事例があることは知っていました。従来のプロセスとは違うアプローチができればと考え、2022年7月ごろにアノンさんに声を掛けたのをきっかけにSFプロトタイピングの手法を取り入れた未来共創計画というプロジェクトをスタートさせました。
大橋 すでに事例をご存じだったのですね。声を掛けられたアノンの森さんは、具体的にどのようなプログラムで進めたのでしょうか?
森 8月ごろ、最初に羽賀さんと浅野さんにヒアリングして現状を確かめました。というのも既存事業のイメージが強いと思考が固まってしまうということがよくあります。これは新規事業を手掛けていても同様のことがあるため、思考がどこに向いているのかを確かめるのが目的でした。
これとは別に、話す中で少しやりづらいなと思った点は、お二人が確固たるビジョンを持っていたことです。普通はビジョンを持っていることが少なく、「じゃ、新しく作っていきましょう」となることが大半。でも逆にしっかりとあるので「これは難問だな」と思いながらのスタートでした(笑)
お2人の話を聞く中でアイデアがいくつか瞬間的に出て来ました。それを基にSF小説のプロット(短い筋書き)を書くことで思考を拡張することにしました。
プロットは2人の作家に1作ずつ依頼して計2作品を2週間ほどで制作しました。思考の拡張が目的なので、長編ではなく気軽に読める3000字程度のものです。
そのプロットをLIXILさん側に共有して議論してもらいました。そこから出たキーワードなどを抽出した上で、ビジョンステートメント(将来像を描いたテキスト)としてLIXILさんが目指す革新的な姿をSF小説で描くことにしました。
浅野 補足すると、私と羽賀さんは2人とも新しいビジネスに取り組んでいます。そこで私たちのビジネスがどれくらい先を見すえているか森さんに理解してもらい、さらに先の「未来の暮らし」といったところにまでスコープを飛ばすために、SF小説のプロットを執筆してもらいました。
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