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25人のAIが一緒に暮らしたら、自我は芽生えるか? ゲームの中で検証 バレンタインなど勝手に企画Innovative Tech

米スタンフォード大学とGoogle Researchに所属する研究者らは、ChatGPTなどで制御したキャラクター25人が1つの町で一緒に生活したらどうなるかを検証した研究報告を発表した。

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このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。Twitter: @shiropen2

 米スタンフォード大学とGoogle Researchに所属する研究者らが発表した論文「Generative Agents: Interactive Simulacra of Human Behavior」(プレプリント)は、ChatGPTなどで制御したキャラクター25人が1つの町で一緒に生活したらどうなるかを検証した研究報告である。それぞれ架空の人格を持ったキャラクター達がバーチャル世界で創発的な行動を繰り広げ、その様子を観察し考察する。


シミュレーションゲーム「The Sims」をほうふつとさせるサンドボックス環境に25人のキャラクターを配置し、行動を観察

 研究者らは、ChatGPT(GPT-3.5)とカスタムコードで制御する25人のキャラクターが、高度にリアルな行動で独立して人生を送る、レトロRPGゲーム風(The Simsなど)のバーチャルな町を作成した。町は「Smallville」と呼ばれ、それぞれの家やカフェ、バー、公園などがある。

 各キャラクターは2Dアバターで表現され、それぞれに個性があり独立して起床や就寝、出勤、仕事、遊びなどを行う。各キャラクターのアイデンティティーと他のメンバーとのつながりを持たせるため、ChatGPT APIで自然言語記述のプロフィールや他のメンバーとの関係性を設定する。

 例えば「ジョン・リンは薬局店員として仕事をしており、人を助けることが大好き。大学教授である妻メイと、音楽を学ぶ学生の息子エディと暮らしている。ジョン・リンは家族をとても大切にしている」といった感じだ。


ジョン・リンの朝の生活。ジョンは午前6時ごろに起床し、歯磨きやシャワー、朝食など朝の習慣をこなす。妻と息子と軽くあいさつを交わした後、出勤する

 このようにアイデンティティーを持ったキャラクター同士が出会い、自然言語で会話することで、日常生活に関する情報を交換し、見た環境も含めて自然言語で記憶を形成していく。そして必要度の高い記憶を取り出し、今の環境を認識し次の行動を決定する。内省できるため、新たな洞察や長期的な計画を立てることもできるという。

 また、ユーザーは自然言語で各キャラクターとコミュニケーションをとったり、指示したりができる。


キャラクターは自分が見た世界を反映したサブグラフを自分が見た状態で記憶する

 これらの基本的な要素を組み合わせてシミュレーションを行ったところ、次に示す3つのことが分かった。

 1つ目は、キャラクター同士が情報を伝え合い、それが町の中で社会的に広まること。2つ目は、キャラクター同士の過去のやりとりを記憶し、後でその出来事に触れること。3つ目は、他のキャラクターと一緒にイベントを計画して参加すること。これらはいずれも事前にプログラムされたものではなく、キャラクター間で自発的に発生したものである。

 例えば、バレンタイン・パーティーだ。イザベラ・ロドリゲスというキャラクターがカフェでバレンタイン・パーティーを企画し、友人やお客さんを招待したのだ。彼女は友人のマリアの助けを借りてカフェを飾り付け、彼女の片思いの相手であるクラウスをパーティーに招待した。

 発起人のキャラクターは、2日間でパーティーへの招待を自律的に広げ、新しい知人を作り、パーティーに好きな子を呼び、適切な時間に一緒にパーティーに現れるように調整した。


イザベラ・ロドリゲスのバレンタイン・パーティーの拡散経路。シミュレーション終了までに、合計12人のキャラクターがカフェでのパーティーを知ることができた

 他にも、市長選への出馬という目標を与えたところ、近所の人に立候補を表明して周り、認知が増えた。さらにはイザベラ・ロドリゲスとトム・モレノは、この市長選について討論し、立候補者をどう思うかの意見を述べていた。

 このようにキャラクター1人がイベントを企画し、それらを広め合い、意見を持ち参加したりしなかったりという現実世界でも起こり得る事象が発生した。出来事を思い出せないなどのエラーもあるが、人格を持ったかのような創発的な行動を示す結果となった。

 研究チームは、実際のシミュレーションを見てもらうため、こちらのサイトでデモを公開している。リアルタイムのシミュレーションではないことに留意したい。

Source and Image Credits: Joon Sung Park, Joseph C. O’Brien, Carrie J. Cai, Meredith Ringel Morris, Percy Liang, and Michael S. Bernstein. “Generative Agents: Interactive Simulacra of Human Behavior.”(2023).



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