痛みなしで薬物投与できる薄型パッチ 超音波を利用 米MITなどが開発:Innovative Tech
米MITと米ニューヨーク州立大学バッファロー校に所属する研究者らは、皮膚から超音波を使って痛みを与えず薬物投与する経皮ウェアラブルデバイスを提案した研究報告を発表した。
Innovative Tech:
このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。Twitter: @shiropen2
米MITと米ニューヨーク州立大学バッファロー校に所属する研究者らが発表した論文「A Conformable Ultrasound Patch for Cavitation-Enhanced Transdermal Cosmeceutical Delivery」は、皮膚から超音波を使って痛みを与えず薬物投与する経皮ウェアラブルデバイスを提案した研究報告である。薄型で軽く、小型なので皮膚に貼って装着できるのが特徴。必要な場所にピンポイントで局所的な薬物投与が行える。
ほとんどの薬物は経口または静脈注射の投与が多い。経口投与では胃腸系での損失を考慮し、より多くの量を投与する必要がある。静脈注射は痛みを与え体内に挿入する必要がある。その点、経皮投与は消化管を通らないため少量の薬物で事足り、皮膚を傷つける心配もない。
他方で、痛みのない超音波を皮膚に当てると、低分子薬物の皮膚透過性が高まることが知られている。しかし、実行するには嵩張る装置を必要としていた。
今回は、超音波を利用して経皮投与を行うための小型パッチデバイスを提案する。小型なだけでなく、薄型のシリコンベースのポリマーであるPDMSで作られているため、テープなしで皮膚に貼って装着できる。
提案パッチは、電流を機械的エネルギーに変換できる複数の円盤状の圧電トランスデューサーを埋め込んだ構成で作られている。それぞれの円盤は、液体溶液に溶けた薬剤分子を含むポリマーの空洞に埋め込まれている。
圧電素子に電流を流すと、圧電素子が液体に圧力波や気泡を発生させ、それが皮膚に当たって破裂する。この破裂した気泡がマイクロジェットを発生させ、皮膚の角質層まで浸透させられる。
実験では、日焼け止めや保湿剤に含まれるナイアシンアミドというビタミンB群を投与することでテストした。豚の皮膚を使った実験では、超音波パッチを使ってナイアシンアミドを10分間投与したところ、超音波の助けを借りずに皮膚を通過できる量に比べ、26.2倍もの量の薬剤が皮膚を通過することを確認した。
また経皮ドラッグデリバリーに用いられるマイクロニードル技術(小型の針で皮膚を穿刺する方法)と比較した結果、マイクロニードルで6時間かけて投与するのと同量のナイアシンアミドを、提案パッチは30分で投与できることが分かった。
現段階で薬剤を数ミリ単位で皮膚に浸透させることができるため、例えば、シミやくすみの治療に使われるナイアシンアミドやビタミンC、火傷を治すための外用薬などへの使用が考えられる。
研究者らは、改良を加えて浸透深度を高め、カフェインやフェンタニル、リドカインなど、血流に到達する必要のある薬物も使えるようにしたいとしている。
Source and Image Credits: Chia-Chen Yu, Aastha Shah, Nikta Amiri, Colin Marcus, Md Osman Goni Nayeem, Amit Kumar Bhayadia, Amin Karami, and Canan Dagdeviren. A Conformable Ultrasound Patch for Cavitation-Enhanced Transdermal Cosmeceutical Delivery.
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