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「科学技術の未来予測はダメ」 指摘から20余年、「SF」は解決の糸口に? 国の機関が気付いた“人中心の社会”の描き方SFプロトタイピングに取り組む方法(3/4 ページ)

文科省の研究機関が描いた科学技術予測の未来像は「“技術マッチョ”すぎる」という課題がありました。科学技術ありきの考え方を転換すべく、「SF」に着目。未来の見方をどう変えるのか取材しました。

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SFならどんな未来も考えられる 「シン・ゴジラ」は政府対応のシミュレーション

小倉 逆に、大橋さんに質問です。SFプロトタイピングは、未来をSFの発想でストーリーを創作し、イノベーションに活用するメソッドだと理解しているのですが、それで合っているでしょうか?

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SFプロトタイピングについて質問する小倉さん(右)

大橋 現在は不確定で、未来が読めない時代です。だから余計に「科学技術が発展すればこういう未来になる」という未来予想がはやっています。しかし、先ほどバックキャスティングと言われた通り、自分たちがどういう未来を作りたいかを先に考え、そこからバックキャスティングして、今何すべきかを考える必要がある。それがSFプロトタイピングです。

 SFとして未来を考えてみる。それがあり得ない未来でも「SFだから」と言い訳にできます。あと、SFを使って物語を作ることで、「こういうことが起こったら人間はこういう動きをする」とシミュレーションできます。

小倉 逆にこうなってほしくない未来を考えるツールにもなり得るのでしょうか?

大橋 なり得ます。僕は、富士山が噴火するとどうなるかを考えたSFプロトタイピングを手掛けたことがあります。「もしも」を想定して今、何をすべきかを考えるのも、SFプロトタイピングの役割だと考えています。

小倉 われわれは今、次回の予測調査をどのような形で進めるかを議論しているところです。起こりそうにない未来や、起こると困る未来を提示し、そのためにこういう技術が必要と考えることもあり得ると思っています。まだ確定はしていませんが、SF的なものを想定して調査を行うことも可能性としてあるかもしれないと考えています。

大橋 映画「シン・ゴジラ」がある種の例だといえます。あの映画は巨大生物が現れたとき、政府はどう動くかをシミュレーションした物語として見ることができます。通常の考えでは対処できないため、異端児と呼ばれている人たちが集まってチームを組む。実際、各省では災害が起きた場合を想定して準備されていると思います。

横尾 みんなでビジョニング(未来のビジョンを考え構築すること)し、どういう世界、どういう社会になってほしいかを考える際、既存の“枠”を外してもらおうとしても、どうしても現実に引っ張られる。「現在のニーズ」になってしまいます。「今に縛られず、未来を考えてください」と言ってもなかなか出てきません。発想を飛ばすために「SFで考えてください」というのはいいかもしれませんね。

大橋 現実に縛られ、どうしても飛べない人が大半です。僕自身、飛び切れるかというと、多分、飛び切れない気がします。誰もが考えなかった発想を生むのは難しいものです。「これは斬新だ」と思ったアイデアが、10年先、20年先には実現されているかも、となることが多いものです。そのためには飛ぶ練習をしなければいけないと思っています。

 イノベーションを起こすとき、現実から脱しなければいけない。そこは訓練が必要だと思っています。SF作家はその訓練を常にしているような人たちです。

岡村 SFプロトタイピングは、われわれが行っているフォーサイトと近しい。フォーサイトの立場から見てSFプロトタイピングは一つのツールとしてあり得ると捉えています。

 フォーサイトでも未来に飛ばすのは重要だし、大きな変化は大切だと思います。ただ、何千年も変わらないものはあります。変わることがいい、とっぴだからいいというわけではないと私は思っています。想像性を使うことは重要だけど、とっぴなものをわれわれが求めているかは、もう一度、問いかけないといけないかもしれません。

「科学技術ありきではダメ」 指摘から20余年、科学技術と社会の歩み寄り

大橋 今まで調査に携わってこられて、変わったところはありますか? 横尾さんは約20年間も担当されていますよね。

横尾 これまでは技術中心でしたが、2000年頃から社会との関係性を考えるようになりました。「それは社会にどんなインパクトがありますか?」「それが発展することで自然環境などに問題は発生しませんか?」といった質問を投げかけるようになっています。プラス面と同時にマイナス面も聞くことが重要と考えるようになりました。

 また、2000年の第7回調査で社会ニーズを検討する分科会を立ち上げる際、「こういう調査です」と人文社会学系の先生に説明したところ、「そんな科学技術ありきの考え方ではダメだ」とちゃぶ台返しを受けました(笑)。

 昔の「科学技術系と人文社会系では話が通じない」状態から比べると、今は科学技術と社会が歩み寄ろうとしている。一緒にやろうとしている。時代的に変わって来ていることを感じます。

 前回の11回調査は、科学技術がメインになっていますが、この調査を材料にしていろいろな議論をしてくださいというスタンスです。これで決まりでもありません。また私たちが作成した資料をみなさんがどう使うかは、それぞれの立場で違うと思います。先ほど不確実という話がありましたが、先が見えなくとも見えないなりに捉えようと、専門家からさまざまな材料を集めています。

大橋 次の調査が楽しみですね。

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調査の変化について話す横尾さん

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