テレビの“テロップ制作”にもクラウド化の波 業界最大手が挑む高き壁:小寺信良の「プロフェッショナル×DX」(3/3 ページ)
放送というのは、映像と音声だけではなく、実にたくさんの文字情報で成り立っている。タレントのしゃべりに逐一テロップが乗るという話だけではない。お天気情報では各地の天気が表組みで示されるし、スポーツの結果も一覧で紹介される。ニュースでも見だしや説明テロップが挿入されるし、バラエティではタレントのしゃべりに逐一テロップが乗る。
VWS on ceacaaがもたらす効果
テロップ制作は、番組制作過程の中でも、かなりオンエアのタイミングに近いクリティカルな作業である。従って現行のシステムは、間違いが起こらないようかなり練り込まれた運用手順になっている。
テロップ制作がリモートで制作可能になることはメリットが大きい一方で、既存の運用手順と変わらない安定性が求められる。従ってVWS on ceacaaでは、局内にあるテロップデータベースを直接いじるのではなく、クラウド上にもテロップデータベースを構築し、必要に応じて局内のテロップデータベースと同期をとっている。局外の作業者はクラウド上でテロップを作っていくが、局内からは必要に応じて、そのクラウド上のテロップデータベースと局内テロップデータベースとを同期するという二段構えになっている。
従って、OAギリギリまでテロップの差し替えが発生するようなニュース・情報番組系での運用は、従来のようにオンプレミス型のシステムのほうに分がある。他方で、事前制作番組のようなものには高い効果が見込める。
またネットワーク局内でクラウドテロップ制作が導入されれば、マンパワーリソースの貸し借りが可能になる。例えばキー局で大きなイベントにかかりっきりになれば、地方局が入力応援に応じたり、逆に台風や地震など地方局のリソースが足りなくなった場合は、キー局の人員が応援するといった、人のやりくりができるようになる。
これまでクラウドで他局とシステムをつなぐ場合、相手方のハードウェアを借りるという考え方だった。だがテロップ作成はマンパワーで押し切る部分であり、テロップ製作者を借りるという考え方になる。それもトップシェアのVWSだから、余計に現実的である。
実際、テロップ制作ができるスタッフは、ITが分かって国語力が高く、デザイン力も必要というレベルの人材が必要になることから、常に人手不足に悩まされている。またテレビにおける文字情報量も、減る傾向は見られないばかりか、むしろ増え続けている。
それゆえにAIの導入等も検討が進められているところだが、最終的な仕上がりや正誤は人間がチェックしなければならない。自分で作れる、手が動かせるうんぬんはささいな話で、高いレベルの知識が必要であることには変わりない。
働き方改革とコロナ禍によって放送システムのクラウド化は現在進行形だが、それは効率化というよりは、最終的には人が足りない問題を解決する方向へ向かって動くものと考えられる。
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