Z世代が100歳になった未来 暮らしは? 死とは? 「SF」から本気で考えるパナソニックの狙い:SFプロトタイピングに取り組む方法(1/4 ページ)
Z世代が100歳を迎える2096年、人々はどのような暮らしをしているのか――そんな未来を「SF」を使って考えたのがパナソニックです。商品より前に考えることがあると語る担当者に、狙いを聞きました。
Z世代が100歳を迎える2096年。その時、人々はどのような暮らしをしているのか、家族の中での死とはどのようなものなのでしょうか。そんな未来を本気で考えたのがパナソニックです。
SFをビジネスに生かす手法「SFプロトタイピング」を使い、世代が異なる3人のSF作家が執筆した短編小説を基にワークショップを実施しました。
「商品やサービスを考える前に、もっと考えなければならないことがあります」――取り組みを進めたパナソニックのデザイン本部にある「未来創造研究所」(現:トランスフォーメーションデザインセンター)のキーパーソンはこう話します。
2096年の未来像をどう捉えたのか、商品より前に考えることとは何か。自身もSFプロトタイピングを手掛けているSFプロトタイパーの大橋博之さんが取材しました。
こんにちは。SFプロトタイパーの大橋です。この連載では、僕が取り組んでいる「SFプロトタイピング」について語っていきます。SFプロトタイピングとは、SF的な思考で未来を考え、SF作品を創作するなどして企業のビジネスに活用するメソッドです。
今回は、SFプロトタイピングを実践したパナソニックの事例を紹介します。パナソニックは2020年に特設サイト「SF小説から未来の“時間”をヨム『Sci-Fi Diving』」を公開しています。
特設サイト内で公開しているSF小説の舞台は、1990年代中盤〜2000年代終盤に生まれたZ世代が100歳ごろまで生きた2096年。その時代に家族はどのような時間の過ごし方をしているかをテーマとし、3人のSF作家、人間六度さん、樋口恭介さん、円城塔さんが家族の時間を物語として描いています。
今回はこのSFプロトタイピングを企画した、パナソニックの真貝雄一郎さん( Panasonic Design New York、2023年4月より)と石田暁基さん(デザイン本部 トランスフォーメーションデザインセンター)にお話を伺いました。
未来創造研究所ってどんなところ?
大橋 SF小説から未来の“時間”をヨム「Sci-Fi Diving」を制作した、未来創造研究所(2023年4月からトランスフォーメーションデザインセンター)について教えてください。
真貝 未来創造研究所はパナソニックグループのデザインコンサルティング部門です。
いくつかの機能がありますが、例えば新規事業や成長戦略プロジェクトに向けてデザインを戦略的に捉え、さまざまなクリエイティブを導入する後押しをしています。また未来研究として10年後にどういった世界が訪れ、どのような暮らしになっているかを研究するシンクタンクの機能もあります。
基本的に、社内の各部門から届く「新規事業はどう考えれば良いのか?」「未来のビジョンをどう捉えれば良いのか?」といった疑問に対して、未来を提示する役割を担っています。
さらに自由研究という位置付けで、メンバーが興味を持ったテーマについて調査を行う、プロトタイプを作るといったことにも取り組んでいます。
大橋 今までどのような自由研究に取り組んでこられたのですか?
真貝 私は「スポーツの未来」の研究に携わってきました。リモートワークが多くなったことで体を動かす機会が減っています。どうすれば都市生活の中で体を動かす機会を取り入れられるか調査し、スポーツの価値を明らかにする研究です。研究成果として、虎ノ門ヒルズ周辺エリアで仕事の隙間時間に体を動かせるプロトタイピングを設置し、実際に使っていただく実証実験を6月まで行っていました。
石田 私は真貝さんとは違って、少し抽象的になるのですが「生活者の時間」を研究しています。特に若年層が時間に対してどのような行動を起こしているかがテーマです。
若者は動画を倍速再生していたり、スマートフォンを持ってお風呂に入ったりと物事を同時進行して時間を過ごしています。そこに興味があります。効率化する時間と自分自身が満足できる時間の過ごし方は使い方が違うのではないかと仮説を立てて研究を進めています。
例えば、時短できる調理家電がたくさん出てきています。しかし本当に食を楽しみたい人は時短をして料理をするのではなく、むしろ時間をかけて料理をすることを楽しんでいるのではないか。そのようなことを解明しようとしています。
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