「なぜ私たちはいつも締め切りに追われるのか」──東大松尾教授が2006年に出した論文が話題
なぜ私たちはいつも締め切りに追われるのか──そんなタイトルの論文がX(元Twitter)上で話題になっている。筆者は、日本のAI研究の第一人者である東京大学の松尾豊教授で、産総研の研究員だったころに執筆。2006年に発表したもの。
なぜ私たちはいつも締め切りに追われるのか──そんなタイトルの論文がX(元Twitter)上で話題になっている。筆者は、日本のAI研究の第一人者である東京大学の松尾豊教授。そんな松尾教授が産業技術総合研究所の研究員だった頃に書いた研究報告だ。
内容はタイトルにあるように、研究者がいつも締め切りに追われる理由を探るというもの。序論では「余裕をもって早くやらないといけないのは分かっている。毎回反省するのに、今回もまた締め切りぎりぎりになる。なぜできないのだろうか? われわれはあほなのだろうか?」と言及。研究者が創造的な仕事をするために、締め切りがいかに重要な要素になっているか解析するとしている。
研究者の精神的ゆとりの単位「ネルー値」
論文では、研究者の精神的ゆとりを表す単位「ネルー値」を提案。1ネルー=「今日、このまま寝てしまっても締め切りなどに影響がない状態」であり、「n日寝てしまっても締め切りなどに影響が状態」=nネルー、「今日締め切りの仕事をまだ達成していない状態」=0ネルーと定義する。
このネルーを高く維持することが効率化につながるのではないかと考察している。例えば、ネルー値が高い場合は「時間がかかる大きな作業を入れられる」「関連した仕事をまとめて片付けられる」などの効果があると説く。しかし、ネルー値を上げると、業務を処理するパフォーマンスが低下し、結果ネルー値は低い状態に戻ってしまう、という例が見られたという。
創造的な仕事は“限界追い込まれ時間”に達するかがカギ?
また、仕事に対する集中力(リソース)の配分を定式化し、最適なリソース配分を探った。その式を解いたところ、“限界の集中力で仕事をやるだけやって、力尽きたらやめる”という形が最適という結果に。「しかし、現実はそうではない」と自ら否定。さらに考察を進めたところ、“限界追い込まれ時間”に達することで初めて、創造的な仕事を成し遂げられる勝算が見えてくると説明している。
ここまでの考察の結果、論文では「創造的な仕事に集中力は欠かせないが、それは時間的な制約がなければ上げにくいものであり、それに寄与する締め切りのおかげでパフォーマンスを出せるわけである」と結論し、以下の言葉で論文を締めている。
「われわれが反省すべきは『早めにやっておけば良かった』ではなく、『もっと集中すべきだった』である。追い込まれなくても集中力を上げるために自分なりの方策を編み出していくことは、研究者が健康で文化的な最低限度の生活を送る上で、欠くことのできないスキルではないだろうか。そのスキルは、高いネルー値を可能にし、さらなる仕事の効率化につながり、今日もよく寝れるというわけである」
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