骨伝導じゃない「軟骨伝導」 耳をふさがないイヤフォンの新顔は、“寝ホン”にもピッタリだった:小寺信良のIT大作戦(2/2 ページ)
いわゆる「耳を塞がない系」のイヤホン・ヘッドホンが幅広い層に注目され始めたのは、コロナ禍が始まった2020年の夏以降ではなかったかと思う。骨伝導タイプなどさまざまな機種が登場したが、最近新たに登場し始めたのが「軟骨伝導」タイプである。一体どういうものなのか。
結構広い軟骨伝導の応用範囲
現在コンビニやスーパーのレジでは、飛沫防止のため透明のビニールシートで店員と客の間を仕切っているところも多い。役所や銀行などでも同様だ。マスク着用が任意となった今では、お互いを守るための必要な措置であるとはいえ、こうした仕切りがあることで肉声が聞こえにくくなっている。健常者でもそうなのだから、聴力が弱まった高齢者ならなおさらだろう。
こうした事情もあり、城南信金と奈良中央信金にて、2023年4月から合計99支店の窓口にこの「Otocarti MATE」と同型のモデルを設置し、据え置きの補聴器として実証実験を行なってきた。そして7月14日には、奈良県宇陀市役所の窓口に10台、正式に導入された。さらに7月27日には、品川区警視庁大崎警察署にも導入された。
マイク部は窓口の内側にあり、仕切りの外側に来た人がこのイヤホンで声を聞くわけである。いわゆる老眼鏡の耳版だ。ドライバに開口部がなく単なる球体なので、クリーニングも簡単である。
特に役所や警察署では、個人情報を口頭で確認する事も多く、耳の聞こえにくい高齢者に対して大声でしゃべる必要がなくなるのは、セキュリティリスクの軽減にも繋がる。使用者も耳を塞がれないので、無意識に大声になってしまうこともない。また耳にぶら下げるだけなので使用者も両手が使え、書類の記入などにも支障がない。今後、高齢者が訪れやすい公的機関では、導入が進むかもしれない。
一方音楽鑑賞用としてのメリットを期待する向きもあるだろう。実際に筆者も「Otocarti LITE」を試聴しているところだが、中音域にクセのある独特の音質のため、音質的な評価としては下がる。ただ肉声の帯域に寄せた面白い音ではあるので、しばらくするとまた聞きたくなる。「ATH-CC500BT」とはドライバ自体も違い、装着位置も異なるので、当然音質も異なるだろうとは予想していたが、軟骨伝導はかなり振り幅の広い技術のようだ。
ガチな音楽リスニングには向かないが、アニメやドラマなど、肉声が中心のコンテンツでは小音量でも聞き取りやすい。周囲に音漏れすることもなく、明瞭感の高いリスニングが可能だ。
もう1つ発見したのは、入眠時のリスニングにも非常に向いているということだ。昨年末から「寝ホン」というキーワードで小型カナル型イヤホンが人気を集めているところだが、小さいとは言え、カナル型の長時間装着が常態化すると、外耳道への負担も大きい。
一方「Otocarti LITE」はドライバが小型で耳穴に入れないため、横向きに寝ても耳に食い込む感じがない。また簡単に耳から外れるので、安全でもある。Cheeroではかねてより、睡眠導入用の音源を再生できるプレーヤー「NEM」を商品化しており、これと組み合わせると非常に快適に眠ることができる。
軟骨伝導は単に音楽を聴くための新方式ということだけではなく、負担なく自然音プラスアルファで音を聴くような、多くの可能性のある技術ではないだろうか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
世界初「軟骨伝導」ヘッドフォン オーディオテクニカが発売 「ながら聴きの常識変える」
オーディオテクニカが軟骨電動技術を使ったワイヤレスヘッドフォンを発売。民生用として世界初という。
「軟骨伝導」式イヤフォンが在宅ワークに適している理由 「cheero Otocarti LITE」を試した
cheeroの「Otocarti LITE」は「軟骨伝導」というあまり聞き慣れない方式を採用したイヤフォン。耳の穴をふさぐことなく、かつ耳に軽く触れているだけでよく、さらに最終的には鼓膜で音を聞くので、音に違和感も少ないとされています。
米Sony、穴が空いた完全ワイヤレスイヤフォン「LinkBuds」発表 音声ARで米Nianticと協業へ
米Sony Electronicsは15日(現地時間)、環状のドライバーユニットを搭載した新コンセプトの完全ワイヤレスイヤフォン「LinkBuds」を発表した。Microsoft、Spotify、Nianticとの協業も。
Shokz「OpenFit」はテレワーク向きの“掛けっぱなしイヤフォン”だった
骨伝導で名をはせたShokzがオープンイヤーイヤフォンに参入。しかも「究極の着け心地にこだわった」という。いしたにまさきさんによるレビューをお届け。