レーザービームを放ち、1km間を9Gbpsで無線通信する携帯型システム 中国の研究者らが開発:Innovative Tech
中国の南京大学などに所属する研究者らは、レーザービームを放射し、1km離れた2点間で約9Gbpsの無線通信を行う携帯型の通信システムに関する研究報告を発表した。
Innovative Tech:
このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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中国の南京大学などに所属する研究者らが発表した論文「High-speed free-space optical communication using standard fiber communication components without optical amplification」は、レーザービームを放射し、1km離れた2点間で約9Gbpsの無線通信を行う携帯型の通信システムに関する研究報告である。
インターネットの接続が速く、途切れることなく安定している環境が求められる今日、光ファイバーの接続が得られない場所での通信は困難を伴うことが多い。しかし「FSO」(フリースペース光通信)という新技術を利用すれば、光ファイバーのない場所でも高速な通信が実現可能である。
FSOは、一方のデバイスからレーザー光を放射し、別の離れたデバイスに光信号を届ける技術だ。これにより、物理的なケーブルが不要となり、高速かつ安全、かつライセンス不要の通信が可能となる。
この研究では、高速ワイヤレス通信の可能性を大きく広げる小型FSOシステムを開発した。このシステムは、1kmの距離で9.16Gbpsの通信速度を実現。さらに、最大4kmでのテスト結果でも、平均損失は18dBにとどまった。良好な気象条件と光増幅技術の併用で、さらに長距離のFSO通信が期待できる。
このFSOシステムは、2つのFSOデバイスから構成。1つのデバイスのサイズは、45(幅)×40(高さ)×35(奥行)cm、重量は9.5kg、消費電力は約10Wとなっている。
各デバイスは、光トランシーバーモジュール、取得・指向・追尾(APT)システム、制御電子部品を内蔵しており、これらの部品は屋外利用を考慮して頑丈なケースに密封されている。APTシステムは、低回折の光学設計と効率的な4段階クローズドループフィードバック制御を特長としている。
このFSOシステムは、さまざまな高度なセンサーと計算技術を組み合わせ、非常に高い精度で動的なターゲットを追尾する能力を持っている。わずか10分以内に目標を迅速かつ正確に捉え、継続的にその位置を追跡することができる。このような精密な追尾技術のおかげで、1kmの距離でも通信の品質低下は最小限にとどまる。実際のテストでは、小型車にFSOデバイスを取り付けて移動させても、相手側との無線通信が途切れることなく継続された。
さらに特筆すべきは、このシステムが特別な光増強装置を必要とせず、市販の光ファイバー通信トランシーバーモジュールを使用してこれらの高度な機能を達成している点である。
Source and Image Credits: Hua-Ying Liu, Yao Zhang, Xiaoyi Liu, Luyi Sun, Pengfei Fan, Xiaohui Tian, Dong Pan, Mo Yuan, Zhijun Yin, Guilu Long, Shi-Ning Zhu, and Zhenda Xie “High-speed free-space optical communication using standard fiber communication components without optical amplification,” Advanced Photonics Nexus 2(6), 065001(14 October 2023). https://doi.org/10.1117/1.APN.2.6.065001
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