お前は今から“鵜”だ──「鵜になって鮎を丸のみ」を体験できる装置 岐阜大の研究者らが開発:Innovative Tech
岐阜大学に所属する研究者らは、鵜飼で鵜となって鮎を丸のみする体験ができる装置に関する研究報告を発表した。
Innovative Tech:
このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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岐阜大学に所属する研究者らが発表した論文「お前は今から鵜だ〜長良川鵜飼での鮎まるのみ体験〜」は、鵜飼で鵜となって鮎を丸のみする体験ができる装置に関する研究報告である。
本物の鵜が鮎を捕まえるとき、水中に潜り鮎をくちばしで捕まえ、水面に浮上した後で丸のみする。この研究は、のみこみを再現する装置「腹結」、首が冷たくなる感覚を再現する装置「首結」、鵜のくちばしを模した装置、そしてVR HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を組み合わせ、鵜が鮎を捕獲する一連の感覚を再現する。
まず、のみこみを再現する装置は、電気通信大学野嶋研究室の研究チームが開発した嚥下感再現装置「Grutio」(1)をベースにして改良を行った。先端に接着電極が付いた平たいひもを備え、内蔵するサーボモーターでひもを引っ張ることができる。
(1) IZUMI MIZOGUCHI, SHO SAKURAI, KOICHI HIROTA, and TAKUYA NOJIMA. Grutio: System for Reproducing Swallowing Sensation Using Neck-Skin Movement. IEEE published. 2021.https://ieeexplore.ieee.org/stamp/stamp.jsp?tp=&arnumber=9490237(参照 2023-05-14)
体験者は喉の下辺りに接着電極を装着する。鮎を飲み込む際、サーボモーターによりひもが引っ張られるとともに首の皮膚も引っ張られ、飲み込む感覚が生じる。接着電極は1回の体験終了ごとに新品のものに交換する。
もう一つの首の装置はサーボモーターとペルチェ素子を搭載しており、ペルチェ素子を冷却させ、飲み込んだ後にサーボモーターを動かすことで、首にペルチェ素子が接触する。これによって鮎がのどを通ったときに冷たくなる感覚を再現する。
次に、鵜のくちばしを模した装置は円すい形をしており、その内部にはプラスチック容器、振動モーター、ストローが組み込まれている。体験者はストローをくわえる。体験中に水中から鮎を捕まえ、体験者が上を向く動作をするとストローが先端の振動モーターに触れ、鮎が鵜のくちばしで暴れて抵抗する感覚を提示する。ストローは1回の体験終了ごとに新品のものに交換する。
HMDでは、視覚刺激と聴覚刺激によって、自身が鵜であるかのような感覚を提示する。体験者の視点は鵜のくちばしに固定されており、水上のシーンでは川を模した景色を展開する。実際の鵜飼をほうふつとさせるかがり火も設置している。
水中に潜入すると、画面は青みを帯び、泳ぐ鮎を観察できる。ヘッドフォンからは川の音や鮎が暴れているときに水が飛び散る音、飲み込んだ際の首から出る音が流れ、没入感を向上させている。
研究チームは、この体験を通して鵜飼に興味を持ち、実際の鵜飼を見学に来る人が増えることを願っている。
Source and Image Credits: 藤嶋駿輔,早崎雅人,藤井俊輔,星野想空. お前は今から鵜だ〜長良川鵜飼での鮎まるのみ体験〜. 第 28 回日本バーチャルリアリティ学会大会論文集(2023年9月)
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