「超アナログ・労働集約型」な牛乳屋のデジタル化 「ITリテラシーなんか存在しない」環境に元コンサルタント社長が挑む(1/2 ページ)
「超アナログ・超労働集約型」な環境とビジネスモデルに、元コンサルタント社長はどう挑むのか。
「働いている人の年齢は、下は20歳から上は75歳まで。主婦も多く、ITリテラシーなんか存在しない。そういう人たちを動かしてDX(デジタルトランスフォーメーション)をする」──乳製品の配達を手掛ける明治クッカー(千葉県市川市)の西原亮社長は、自社が推進する業務効率化についてこう話す。
明治クッカーは1971年創業。西原社長はもともと東京でコンサルタントを手掛けていたが、2013年に初代社長である父親から会社を継いだ。当時は「コンサルタントのノウハウがあれば牛乳業界なんて一瞬で覆る」と考えていたと西原社長。
しかし、実際にそこで待っていたのは「超アナログ・超労働集約型」な環境とビジネスモデルだった。FAX・紙は当たり前で効率が悪く「放っておいたら必ず売り上げが下がる」(西原社長)ような状況だったという。
無駄を減らし、顧客との接点を増やさないと到底立ち行かない──そう考えた西原社長は、現状でITで改善することを選んだ。11月15日に開催したGoogle Cloudの年次イベント「Google Cloud Next Tokyo‘23」(東京ビッグサイト)では、西原社長が主導するDXの全容が語られた。
「努力・気合・根性の世界」 社長から見た牛乳配達業界
最初に、明治クッカーが当初抱えていた課題を整理しておく。牛乳配達業は利益率が平均1%程度で、少しでも牛乳配達に時間がかかるとすぐ赤字になる世界だと西原さん。同社の利益率も、事業を継いだ当時は社長報酬96万円を差し引いて同程度だったといい「アナログ・努力・気合根性の世界観。1日300〜500件テレアポが必要なビジネスモデルだった」と振り返る。
しかしこの状況では、契約している顧客とコミュニケーションをする時間が取れない。配達に必要な時間も加味すればなおさらだ。「お茶を飲んでいきなさいよ」などと、契約につながりそうな声をかけてもらったとしても、対応すると赤字になってしまい、従業員の給料も上げられない。これでは本末転倒だ──というのが、西原社長の課題感だったという。
あるあるな“見えない・探す・被る”問題 対処は
しかし、効率化も前途多難だった。紙とファックスが当たり前な状況もさることながら、ITが苦手な企業にあるあるなムダがいくつもあったという。
その最たる例が、西原社長が“見えない・探す・被る”と称する問題だ。明治クッカーではMicrosoft製品を使って売り上げなどをまとめた資料を作成していたが「“見るべき”数字や活動実績を従業員が分かっておらず、都度紙で貼りだしていた」という。
一方で「後に集計しようと思うと、みんながローカルで元データを持っているから必要なデータがどこにあるか“探さなくてはいけない”」という問題も。そして「良かれと思ってみんなが同じ作業をしているために、資料やマニュアルが“かぶってしまい”、どれが最新か分からない」という状態にも陥っていた。
とはいえ、西原さんにはITエンジニアとしての経験はなく、自らシステムを組むことはできない。予算もかけられないことから、システム開発事業者に頼むことも難しい状況だった。「営業利益が1%なので、仮に年間3億円売り上げても300万円しか残らない。システム開発に150万円かけたら利益率0.5%になってしまうし、できるだけ自分たちでいじれるシステムにしたかった」
そこで、西原社長が選んだのは「なるべく誰でも使えるクラウドサービスを一つだけ使い、全ての問題に対処すること」だった。対象のクラウドサービスには、米Google製品のオフィススイート「Google Workspace」を採用。ビジネス向けのLINEやChatwork、サイボウズ製品なども試したが、予算や使い勝手が折り合わなかったといい、最終的にはスプレッドシートを中心に、Google製品のみで仕組み作りを進めることにした。
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