子ども3人以上での「大学無償化」が“ヘンテコ設計”に感じられるワケ “教育の無償化”がもたらす功罪:小寺信良のIT大作戦(3/3 ページ)
政府が3人以上の子どもが居る多子世帯を対象に、2025年度から子どもの大学授業料などを無償化する方針を固めた。教育費の負担減は、子育て世代にはありがたい。今回の話はITとは直接関係ないものの、IT化が進む教育現場を考える上で大事なトピックなのでこの場で整理してみたい。
少子化対策と関係ない大学無償化
政府の大学無償化制度は、3人以上の子どもが居る多子世帯が対象となる。この「3人以上の子ども」という部分が少子化対策とされるわけだが、それ以上の詳しい話が出てこないことから、考えれば考えるほど不思議な施策となっている。
例えば「子ども」という表現も曖昧だ。これが「児童」であるならば、多くの法律では18歳未満を指すわけだが、単に「子ども」というなら30歳でも子どもである。30歳を先頭に3人兄弟親と全員同居して生計を共にするなら、多子世帯になるだろう。30歳だからもう大学には行かないとは限らないわけで、子どもが何歳でも関係ないだろう、みたいな話になる。職を辞して30歳から大学に行くので、という話になると、それはもう少子化対策というよりは、生活支援に近い。
では実際に、3人以上の子どもが居る家庭はどれぐらいあるのか。厚生労働省が2022年に行った「国民生活基礎調査」によれば、3人以上の児童がいる世帯は、全体の2.3%しかない。「児童」なので18歳未満の子どもということになり、それ以上の年齢の子どもがいる世帯はもう少し増えるにしても、受益者が非常に少ないことが分かる。
そもそも児童がいる世帯全部足しても、18.3%しかない。国力を上げるための教育支援だとするなら、子どもの数に関係なく、一定の成績優秀者に対して支援すべきではないのか。
子ども3人になる可能性が高いのは現在子ども2人の世帯だが、子どもが大学に行くかどうかを考えるタイミングは、高校受験の時だろう。大学へ行くなら進学校へ、行かないなら実業系の高校や就職などするはずだ。子どもの年齢は15歳なので、それが第一子だとすると、保護者の年齢は若くても35歳前後、昨今の晩婚傾向を考えると、おおむね40歳以上が平均だろう。
一般に妊娠適齢期は20〜35歳までと考えられており、40歳以上でとなるとかなりリスクが高くなる。その時に、大学が無償だから今からあと1人子ども作りましょう、とはならないだろう。
そもそも少子化対策ならば、これから子どもを持つであろう年齢の人達に効く施策であるべきではないのか。とはいえ、妊娠適齢期の人達も、大学が無償になったから3人以上産みましょう、とはならないだろう。「保育園落ちた日本死ね」と言われたのが2016年。あれから7年が経過し、今は「学童落ちた日本死ね」といわれている。
子どもを作らないのは、将来の子どもの学費が大変だからではない。今の生活が良くなる希望が持てないからだ。生活を向上させるために夫婦共働きは必須だが、子どもを預ける場所がなければ働けないという無限ループから抜け出せていない。
戦後すぐの日本でベビーブームとなったのは、今から考えると奇跡のような話である。戦争であまりにも多くの人が死に、生活もどん底だが、だからこそ希望だけはあった、いや希望しかなかったのかもしれない。また暮らしぶりも、物をもらったりあげたり、貸したり借りたりといった貨幣外の経済圏があった。
高校に続いて大学の無償化は、教育支援としての大きな流れには沿う。だがそれと少子化対策を無理やり合体させたことで、子ども3人以上みたいなヘンテコな設計になった。
少子化対策というのならば、妊娠適齢期の人達に対して子どもがいることが労働者としてハンデにならない社会になることが先だろう。多くの人がこの施策に苛立っているのは、そういうところではないのか。
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