「15人のはんこリレー」vs.「庵野秀明との対話」 JAXAからカラーに移った、とある新人制作進行の話(前編)(3/3 ページ)
JAXAからアニメの制作進行に転向するという異色の経歴の人物がいる。成田和優氏だ。なぜ職を移ったのか。両者の違いと共通点は。シン・エヴァの制作を通じて感じた、アニメ業界のマネジメントとは。「プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン」の著者でもある成田氏に話を聞いた。
「SHIROBAKOはリアルだが「万策は尽きない」
アニメの制作進行を主役にすえたアニメ作品に、「SHIROBAKO」(2014〜15年放送)がある。SHIROBAKOの内容は、現場の制作進行から見てリアルなのだろうか?
成田氏は「作品の通りだと思うことばかり」だったと語る。同作の水島努監督は制作進行出身で、多数のアニメ制作に関わってきており、その経験が反映されているとみる。
「SHIROBAKOで起きている個別のやりとりや事象はどれも本当。監督がいろいろな作品や現場で経験されてきたことや見聞きしたことを一カ所の舞台に集めているのでは。いい話も辛そうに見えることも含めてその通りだと。主人公・宮森あおいの置かれた立場がわかるし、判断や失敗がわかる。演出がすごく上手いので誇張されている部分はあるが」
ただ、SHIROBAKO発のネットミームとしても有名な「万策尽きた」は、カラーでは起きないという。
「万策は尽きない。カラーには達人が多いので。例えば、自主制作で初めてアニメを作ったときは万策尽きたことがあると思うが、カラーのクリエイターもマネジャーもみんな海千山千なので、万策尽きることはないと思う」
あえて言うならば、新型コロナウイルスの流行はこれまでに経験したことのないパターンであり、公開日がずれ込み、当初予定の宣伝予算が尽きそうになるという試練に直面した。「それでも、万策尽きる寸前で打開できた」
事実、21年3月8日の公開日まで延期は2回におよび、プロモーションは混迷を極めた。緊急事態宣言の発出で1回延期したのち、21年1月23日を新たな公開日に設定。これを盛り上げるため、1月から「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序、:破、:Q」を日本テレビ「金曜ロードSHOW!」で3週連続放映するなど、入念に宣伝施策を組んでいった。
しかし、1月8日には2度目の宣言が発出。公開延期は回避できず、かつ新たな公開日が決まらないまま放映されることになる。それは、告知予算のほとんどを「ある種空振りの形で執行した」(カラー代表取締役副社長の緒方氏)と表されるほど。
テレビ放映後の告知映像では、公開日の代わりに「公開日検討中 共に乗り越えましょう。」というメッセージに急きょ差し替え。ファンのモチベーションを高く保つことができた。ただし、宣伝予算はもうない。そこで東映から提案されたのが異例の「月曜日公開」だった。
通常は週末に集客できるよう金曜日に公開することで、映画への注目度を高める手法が一般的。しかし、シン・エヴァでは月曜公開自体に話題性があること、そして映画館に駆けつけたファンによる熱量の高いコミュニケーションが週末にかけて続くことで、動員数増を見込んだ。そしてこの作戦は大成功を収める。その辺のいきさつは「プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン」を参照されたい。
こうしてシン・エヴァ「Avant2パート」「Aパート」の制作進行として邁進していた成田氏だったが、日々のやり取りのなかで“庵野流マネジメント”を目撃することとなる。シン・エヴァの制作現場を追ったドキュメンタリーから“ちゃぶ台返し”のイメージもある庵野氏だが、現場からはどう見えたのだろうか。後編は、成田氏から見た「マネジャー:庵野秀明」の実態をお伝えしたい。
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