「ちゃぶ台返しはしない」 シン・エヴァ制作進行が見た“マネジャー庵野秀明”の姿(後編)(6/6 ページ)
「庵野さんは“ちゃぶ台返し”はしない」。シン・エヴァの「Avant2パート」「Aパート」で制作進行を担当した成田和優氏は言う。成田氏へのインタビューから、マネジャーとしての庵野秀明をひもといていく。
公開延期の真相……完成はいつだったのか
シン・エヴァは当初20年6月に公開予定だったが、直前に新型コロナウイルスが国内で流行。2度の延期に直面した。
延期発表を受けて「実は制作が間に合っておらず、伸ばすつもりだったのでは」ともうわさされたが、成田氏はこれを明確に否定する。「20年6月の公開は、ガチ中のガチだったと感じる」と。
成田氏によると、「Aパート」の最終工程である「撮影」が始まったのが20年2月20日。この段階で公開まで4カ月もあれば完成させられる。もし間に合わせることが難しくなった場合でも、庵野氏は根本的な内容や構成、意図はそのままに、必要コストや時間を調整する“プランB”に切り替えて対応したはずだという。
結果的に完成は20年12月、公開は新型コロナウイルスの影響で21年3月にずれ込み、時間的余裕ができたことから、庵野氏主導でシーン追加をしたり、リテイクを重ねたりした部分はある。だが、締め切りに間に合わせるノウハウとプランはあったのだ。プロジェクト・シン・エヴァンゲリオンにも「庵野さんは逆算が得意」という証言が複数出てくる。過去多くの作品に携わり、“尻”を決めてからの工程やスケジュールに高い解像度を持っている証なのだろう。
現場の声から浮かび上がる、敏腕マネジャー庵野秀明の姿。カラーの精鋭たちと日々、密に連携しながらシン・エヴァを作り上げていったわけだが、それを大きく支えたのがITである。プリヴィズ作成で大いに活躍した自社製バーチャルカメラシステム、総容量1PBにおよぶ巨大データストレージサーバ、アカウント管理、コロナ禍で導入したリモートワークシステムなど、シン・エヴァ制作を支えたシステムについて、別途「番外編」としてお届けしたい。
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