「ChatGPTを駆使した」芥川賞作品を読む “ポリコレ的にOKな表現”が支配する未来とは(2/2 ページ)
芥川賞を受賞した『東京都同情塔』は、「一部がChatGPTなどの生成AIで書かれた」という話題が一人歩きしているが、実際に読んでみて、「なんだこれは」と衝撃を覚えた。
AI-Builtの言い回しはChatGPTにかなり似ている。このため、Ai-Builtの発言にChatGPTの回答がそのまま使われているのではと考え、作中の質問文をChatGPT(GPT-4)に入力してみたが、同じような回答は得られなかった。
九段さんは相当練り込んだプロンプトを作ったか、さまざまな出力を試した上、適切な結果を吟味して使ったのかもしれない。
「AI-Built」は文章“構築”AIと呼ばれている。文章“生成”AIと呼ばない理由は不明だが、主人公の女性建築家(わざわざ女性と書くのもポリコレ的にアウトかも?)になぞらえて、建築と構築をかけているのかもしれない。
自分で自分を「検閲する」私たち
言葉に気を付けているのは、筆者のように文章を生業にする人間だけではないだろう。誤解がないよう、傷つけないよう、炎上しないよう、あらゆる方向に気を遣って言葉を発している人は多い。“差別的でないこと”が重要とされ、誰でもSNSで発信したり、テキストメッセージでコミュニケーションしたりする時代だから。
作中では、主人公の発言を「私の内部の検閲者」がチェックしようとする。筆者にとっても「自分の内部の検閲者」は極めて身近だ。
心の中では過激な言葉を使ったり、差別的な自分自身がいたりしても、言葉を発するときは自分を自分で「検閲」し、発言の角を削り、無難な表現を探る。この本を読むまでは、自分の中に「編集者」を飼っている……つもりだったが、今や「検閲者」と言った方が適切かもしれない。
筆者は20年ほど前からインターネットで記者業を続けてきたが、ここ最近は息苦しさが増してきた。批判を受けないと想定できる“検閲基準”はより低く厳しくなり、「以前ならば書いていたことも書けなくなった」と感じている。
犯罪者は快適なタワマンに住むべき?
作品のタイトルである「東京都同情棟」は、新宿に建築される、快適なタワーマンションのような刑務所だ。犯罪者は「同情されるべき人々『ホモ・ミゼラビリス』」であり、刑務所は彼らに快適な生活を提供すべき空間になるべきだという考えから建てられる。
正式名称は「シンパシー・タワー・トーキョー」なのだが、主人公はこの名前を毛嫌いし、「東京都同情棟」と呼ぼうとする。
日本人(という書き方は適切ではなく、日本語を母語とする人、だろうか)は、漢字やひらがなの表現を生々しく感じ、カタカナになると手触りが消えてツルッとする。ポリコレ的にもカタカナのほうが無難になる印象がある。
「何だったんだこれは」
正直筆者は、この本を一読しただけでは理解しきれなかった。読んでいる間中、心がざわざわしていたし、読み終わっても「何だったんだろうこれは」と整理がつかない。
整理がつかないということは、自分自身の語彙やカテゴリーでまとめられない新しいものを見せられた、ということだと思う。SFっぽいけどSFではなく、恋愛小説でも推理小説でも成功物語でもなく……これが純文学なのかもしれないな、と思った。
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