“牛乳”でマザーボードから「金」を取り出す方法 純度90%以上金塊22カラット相当の抽出に成功:Innovative Tech
スイスのETH Zurichに所属する研究者らは、牛乳を利用して古いコンピュータのマザーボードなどの電子廃棄物(E-waste)から金やその他の金属を抽出する方法を提案した研究報告を発表した。
Innovative Tech:
このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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スイスのETH Zurichに所属する研究者らが発表した論文「Gold Recovery from E-Waste by Food-Waste Amyloid Aerogels」は、牛乳を利用して古いコンピュータのマザーボードなどの電子廃棄物(E-waste)から金やその他の金属を抽出する方法を提案した研究報告である。
廃棄したコンピュータのマザーボードには、金やその他の重金属が豊富に含まれており、金を回収する需要は着実に増えている。これらの貴重な金属を回収するための方法が開発されており、現在の金回収方法には、活性炭を使用した吸着法などが一般的だ。
しかし、これらのプロセスは環境に害を及ぼす可能性のある合成化学物質に依存しており、資源を大量に消費する。そのため、より効率的な抽出材料の開発が求められている。
この研究では、牛乳から作り出されたエアロゲルを用いて電子廃棄物から金を回収する新たな方法を紹介している。プロセスは、牛乳の副産物である「ホエー」(水切りヨーグルトなどを作るときに得られる液体)から始まる。
ホエーに含まれるタンパク質を酸性条件下で加熱することで変性させ、この過程でタンパク質は自己組織化し、AF(Protein Amyloid Nanofibrils)と呼ばれるナノフィブリル構造を形成する。この構造は金イオンを効率的に吸着する能力を持つ。
次に、変性させたタンパク質溶液をフリーズドライすることでAFエアロゲルを製造できる。エアロゲルは極めて軽量でありながら高い表面積を持つため、金の吸着に非常に有効である。金を含む電子廃棄物、例えば古いコンピュータのマザーボードは、適切な溶剤、通常は王水を使用して溶解する。この過程で金を含む多くの金属が溶解し、溶液中に金イオンとして存在するようになる。
溶解した電子廃棄物溶液をAFエアロゲルと接触させると、エアロゲルは金イオンを選択的に吸着する。AFエアロゲルは他の金属イオンに比べて金イオンに対して高い選択性を持つため、効率的に金を回収することができる。
金イオンを吸着したAFエアロゲルを加熱処理することで、金イオンは金の粒子に還元できる。この過程でエアロゲルの有機成分は分解し、純度の高い金の粒子が残る。
最終的に得られた金の粒子は、純度の評価と必要に応じてさらなる精製プロセスを経て、使用可能な形態の金に変換できる。この金は、約90.8wt%の純度(約21〜22カラット)を持つと報告が上がっている。
Source and Image Credits: Mohammad Peydayesh, Enrico Boschi, Felix Donat, Raffaele Mezzenga. Gold Recovery from E-Waste by Food-Waste Amyloid Aerogels.
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