トコジラミに「バルサン」は効かない、は本当なのか? SNSに流れる話の真偽、メーカーに聞いた(1/2 ページ)
X上にはトコジラミの目撃報告の他、駆除方法、体験談などがあふれているが、その中に見過ごせないものを見つけた。「トコジラミはバルサンを炊くと奥に逃げるだけで倒せない」? メーカーに聞いた。
3月10日、X(旧Twitter)に都内を走る電車のシートでトコジラミを見つけたという投稿があり、大手メディアも取り上げて騒ぎになった。刺されると激しい痒みが1週間も続き、駆除も難しいといわれるトコジラミだけに、世間の注目度も高い。
日本では戦後の衛生環境の改善でトコジラミの被害は激減していたが、2010年ごろから再び増加傾向にあるという。SNSにもトコジラミの目撃報告をはじめ、駆除方法、体験談などがあふれているが、その中で「トコジラミはバルサンを炊いても奥に逃げるだけで倒せない」「普通のバルサンを炊くとトコジラミは駆除できず生息場所を広げてプロの業者も対応が難しくなる」といった内容の投稿を見つけた。
バルサンといえば、1952年の登場以来、メーカーは変わりつつも70年以上にわたって使われてきた、くん煙剤の代表格だ。「隅々まで効く」のテレビCMを覚えている人も多いだろう(注:当時は中外製薬)。筆者も万が一の時には頼ろうと思っていたので、現在バルサンを製造/販売しているレック(東京都中央区)に、事の真偽と、そうした話が出てきた背景について聞いた。
刺されると激しい痒み
──最初にトコジラミとはどういった害虫なのか教えてください
レック:体長は5〜8mmほどで、とても薄い体型をしており、いずれの成育ステージ(幼虫〜成虫)、また雌雄で人や動物の血液だけエサとします(蚊の場合は成虫の雌のみが吸血します)。感染症を媒介するという報告はありませんが、刺されると激しい痒みを引き起こす害虫です。
吸血行動は、主に消灯後に生息場所から這い出し、行います。自宅に持ち込んでしまうと、駆除しない限り、常に吸血されるリスクがあります。
現在、日本でトコジラミが広がっているとされる理由は複数ありますが、例えば外国旅行者の荷物を通じて国内に持込まれ、公共空間や宿泊施設を通じて家庭内に持ち込まれることが多いといわれています。
──SNS上で「トコジラミはバルサンを炊くと奥に逃げるだけで倒せない」「普通のバルサンを炊くとトコジラミは駆除できず生息場所を広げてプロの業者も対応が難しくなる」といった投稿をみました。こういった話は事実なのでしょうか
レック:薬剤が十分に暴露されるような環境に潜むトコジラミに対しては駆除効果があります。しかし、くん煙剤の煙が到達しにくい場所に生息しているトコジラミ──トコジラミの体は非常に薄いため、畳と畳の間や、壁紙の継ぎ目の裏側、衣服の縁などに潜んでいることが多いです──に対しては、致死量の薬剤が到達する前に隙間の奥へ逃げ込み、駆除しにくいことが想定されます。
レック:「バルサンを使用することで生息場所を広げる」については、もし可能性があるとすれば、バルサンを処理することで、潜伏場所から這い出してくる個体を観察された可能性が考えられます。このような個体に対しては、後で詳しく話しますが「バルサンまちぶせスプレー」との併用により駆除効果が高まると考えています。
また、「バルサンの使用によりプロの業者も対応が難しくなる」については、プロの駆除業者の方がトコジラミの潜伏場所を探すのに血糞(トコジラミが吸血後に排せつする赤黒い糞)を目印にしますので、血糞のあるところからくん煙剤によって這い出した個体がいたこと(=血糞以外の場所にもトコジラミがいる)で、そのような投稿につながったのかもしれません。
いずれにしても、這い出した個体はより駆除しやすくなりますし、プロが駆除対象とするのは血糞のあるところだけではないため、そのような事実はないと考えています。
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