周期性のない図形「ペンローズ・タイル」が量子コンピュータのエラーを訂正? カナダの研究者らが発表:Innovative Tech
カナダの研究所Perimeter Institute for Theoretical Physicsとエジンバラ大学に所属する研究者らは、繰り返さないパターンであるペンローズ・タイリングが、量子コンピュータの誤り訂正に応用できることを提案した研究報告を発表した。
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このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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カナダの研究所Perimeter Institute for Theoretical Physicsとエジンバラ大学に所属する研究者らが発表した論文「The Penrose Tiling is a Quantum Error-Correcting Code」は、繰り返さないパターンである「ペンローズ・タイリング」が、量子コンピュータの誤り訂正に応用できることを提案した研究報告である。
量子コンピュータは量子力学の原理を利用することで、従来のコンピュータでは解くことが難しい問題を高速に解くことができる。しかし、量子情報は環境ノイズからの影響に非常に脆弱であるという問題がある。
この問題を解決するために不可欠なのが、量子ビットのエラーを訂正する「量子誤り訂正」である。量子誤り訂正では、複数の物理量子ビットを巧みに組み合わせることで、エラーが発生しても情報を失わない仮想的な量子ビットを構築する。
一方でペンローズ・タイリングは、1970年代にロジャー・ペンローズ氏が発見したもので、たった2種類の菱形のタイルを特定の規則で敷き詰めることで、無限に異なる非周期的なパターンを形成できる。しかも、どの部分を取り出しても全体のパターンを特定することができないという「局所的不可識別性」が成り立つ。
(関連記事:数学の未解決問題「アインシュタイン問題」が解決? 1つの図形だけで敷き詰めても“周期性が生まれない”)
研究者らは、このペンローズ・タイリングの局所的不可識別性が量子誤り訂正でも重要な概念であることに気が付いた。量子誤り訂正符号では、元の量子情報が各物理量子ビットに分散されているため、一部の量子ビットを測定してもどの情報が符号化されているのか特定できない。これはまさに、ペンローズ・タイリングの局所的不可識別性と同じ性質である。
この着想を基に、研究者らはペンローズ・タイリングを量子状態に置き換えることで、新しいタイプの量子誤り訂正符号を構築することに成功。研究者らは、同じタイリングから生成される複数のパターンの量子重ね合わせ状態を考えた。すると、局所的なエラーが発生して一部のタイルが欠けたとしても、どのパターンで埋め合わせれば良いのか分からなくなる。これにより、元の量子情報を守ることができるのである。
ペンローズ・タイリングと量子誤り訂正の意外な関係性は、量子コンピュータの実現に向けた新しい可能性を示唆している。今後の研究では、他の非周期的なタイリングでも同様の性質が成り立つのか、有限サイズのタイリングに変換する方法はあるのかなど、探求すべき課題は多い。また、タイリングの幾何学的性質と量子重力理論との関連性など、より深層の数理的構造の解明も期待される。
Source and Image Credits: Li, Zhi, and Latham Boyle. “The Penrose Tiling is a Quantum Error-Correcting Code.” arXiv preprint arXiv:2311.13040(2023).
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