ピタゴラス提唱の“不協和音”の理論、間違いだった? 人は少しズレた不調和を好む 英研究者らが発表:Innovative Tech
英ケンブリッジ大学、米プリンストン大学、ドイツのMax Planck Institute for Empirical Aestheticsに所属する研究者らは、古代ギリシャの哲学者ピタゴラスが提唱した協和音が整数比に基づくという理論に新たな洞察を加えた研究報告を発表した。
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このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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英ケンブリッジ大学、米プリンストン大学、ドイツのMax Planck Institute for Empirical Aestheticsに所属する研究者らが発表した論文「Timbral effects on consonance disentangle psychoacoustic mechanisms and suggest perceptual origins for musical scales」は、古代ギリシャの哲学者ピタゴラスが提唱した協和音が整数比に基づくという理論に新たな洞察を加えた研究報告である。
ピタゴラスによれば「協和音」(一緒に鳴らされたときに心地よく調和すると感じられる音の組み合わせ)は、3と4などの単純な数字の間の関係によって生成され、単純な整数比が和音を美しく響かせるとされた。また、これらからの逸脱することは音楽を「不協和音」、つまり不快な音にすると考えられてきた。
しかし、研究者たちは、ピタゴラスとは異なる2つの重要な点を発見した。1つ目は、通常の聴取環境において、実際にはこれらの数学的比率で完璧な和音を必ずしも人は好むわけではないことだ。むしろわずかな逸脱を好むこと、つまり少しの不完全さが魅力的に映ることが分かった。
2つ目は、特定の楽器、特に西洋になじみの薄いものを取り上げると、音楽の協和音に関する従来の数学的関係が必ずしも重要ではなくなり、音色が大きな役割を果たすことが明らかになった。
例えば、ジャワのガムランに用いられる「ボナン」という楽器が、整数比に基づかない独自の協和音と不協和音のパターンを提供している。この発見は、ピタゴラスの理論を越え、音色が音楽的表現の多様性を広げる重要な要素であることを示唆している。
さらに、訓練を受けていない音楽家であっても、新しい楽器の音色に基づく協和音を直感的に理解できることを確認。これは、音楽の知覚が単なる数学的比率だけでなく、音色に深く影響される複雑なプロセスであること、そして音楽が持つ普遍性と文化を超えた共感性を示している。
実験では、アメリカと韓国から合計4000人以上が参加。参加者にさまざまな和音を聴かせ、それぞれに対して数値による快適さの評価を求め、和音内の特定の音を調整してより心地よくするためのスライダーを動かしてもらった。
23種類の実験を行い、特定の音楽間隔に焦点を当て、それらが完全に調和しているか、わずかにシャープかフラットかを判断してもらったり、西洋と非西洋の楽器を使った和声認識を探ったりした。実験からは23万5440件の参加者の判断を収集できた。
Source and Image Credits: Marjieh, R., Harrison, P.M.C., Lee, H. et al. Timbral effects on consonance disentangle psychoacoustic mechanisms and suggest perceptual origins for musical scales. Nat Commun 15, 1482(2024). https://doi.org/10.1038/s41467-024-45812-z
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