テレビ業界のハードワークは、なぜ無くならないのか:小寺信良の「プロフェッショナル×DX」(4/4 ページ)
この連載ではこれまで、主に映像・放送技術のDX化についてフォーカスしてきたが、そもそもDXとは、人の働き方改革とセットの話である。今回はテレビ業界の働き方について、DXによる働き方改革は起こりうるのかを考えてみたい。
報じられないテレビ制作の過剰労働
こうした過重労働が社会問題化するのは、それが報道されるからである。電通の新入社員が過労により自死を選んだ2015年の事件は、大手広告代理店という華やかな舞台での悲劇という事もあり、大々的に報じられた。だがテレビ制作における過重労働は、あまり積極的に報道されない。なぜならばテレビ局もまた報道機関であり、新聞社が親会社ともなれば、一体誰が身内の汚点を取材して報じるのか。
DX化やAIによって、映像技術はどんどん新しいことがおこっている。一方制作進行は人を扱う仕事であり、DXやAIではどうにもならない部分が多い。人を使ってやってもらうという仕事ではあるが、作品のクオリティーは直接的に自分の手の中にあるので、いわゆるマネジメントともちょっと違うのだ。
前段でも述べたが、編集業務に関してはAIでかなり楽になりつつある。ADの業務に編集関係の仕事、例えばインタビューのサマリーをまとめるみたいな作業は、AIによる書き起こし機能でテキストに起こし、それを別のAIに食わせてサマリーを作るなど、効率化できる部分もある。ただ、そのサマリーがポイントを外していた場合は、責任問題となる。「AIがやりました」は通用せず、「オマエは全部見たのか」と詰められる世界である。
なぜならば番組の評価はQCような基準があるわけではなく、あくまでも手元にそろった材料でこれがベストなのか、これ以上の組み合わせはないのかといった、人が頭を使って構成するという部分が問われるからだ。そのためには、細かいステップごとの確認とOKを積み上げていくしかない。
今も昔も、テレビ制作に関わる労働は過酷だ。それがこれまで問題にならなかったのは、普通の仕事と違って、面白がって遊んでるような部分があるからだ。面白いから、苦しいのに気付かない。逆に面白がれないならただただつらいだけなので、無理にでも面白がることが生き残る道になる。
こうした状況では、中から変わることは難しい。変わって欲しいとは思っているだろうが、自分で変えるには「怒り」が足りない。
一方でテレビ業界の人材不足は、深刻なものとなっている。すでに学生達の間では「テレビはブラック」というのが当たり前のように認知されており、優秀な人材は別のクリエイティブ分野に行ってしまう。「キャリタス就活」による2024年卒の就活生人気ランキングによれば、上位200位にランクインしているテレビ局は46位のNHKのみで、いかにテレビ業界が若者にとって魅力がないかが、手に取るように分かる。
ADの名称を変えるといった「イメージの払拭」では、状況は改善しない。テレビ局主導でこんなことをしても、テレビ局自体が直接ADを雇用しているわけではないので、無意味…とは言わないが、影響力は限定的である。
一般に後継者が育たない業界は、廃業するしかない。テレビ放送というインフラは技術を中心に残るかもしれないが、オリジナル番組制作事業が縮小していけば、ネット配信用に制作された番組を買って放送するみたいな、逆流もおきるだろう。こればかりは、DXでは救えない。
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