検索
コラム

AI生成の“非実在美女”が、甘い言葉や愛国ワードで懐を狙う――お隣中国の最新AI事情(2/3 ページ)

ChatGPTやmidjourneyなどで火がついた生成AIブームから1年。ネットの壁を構築する中国でも、壁を超えてでもこれらを利用しようとする動きや、西側に負けじと中国でも生成AIやサービスが続々と登場している。バイトダンスのショート動画サービスなどでは、AIによって生成された非実在の動画配信者が一部の男性層を虜にし、お金を貢がせている。

Share
Tweet
LINE
Hatena

110万フォロワーの「雑なCG豊満美女」がいる

 巧克力は本物の人間と見分けがつきにくいバーチャルキャラクターだが、巧克力よりももっと雑でCGに寄った豊満美女が配信する動画もある。有名どころが110万人のフォロワーを抱える1980年代生まれのアラフォーシングルマザーという設定の「小姨妹」というアカウントで、その風貌は例えるならX(旧twitter)の中で話題となったゲーム広告「おねがい社長」に出てくる女性のようでもある。


1980年代生まれのアラフォーシングルマザーという設定の「小姨妹」

 したがい「小姨妹」はAIが生成した画像だと気付かれやすく、プラットフォームの抖音にも見破られており「コンテンツはAIによって生成された疑いがある」と画面隅に注意書きが書かれる始末。それにもかかわらず、投げ銭を送り誠実に声掛けをする熱烈なファンが多くいる。小姨妹のフォロワー構成を見ると、やはりフォロワーの86%が男性で、それも中高年が多数を占める。

 豊満美女の小姨妹の動画を見てみた。するといかにも金持ちそうな部屋の中で微笑んだ静止画と本人の設定の声が流れ、次に販売する商品が並んだ写真が表示され、商品の特徴や限定特別価格で購入後すぐに届くといった内容の音声が流れる。

 売ってる商品は男性用化粧品や男性用パンツや服やワイン、果てはカップラーメンやライターやナイロンのひもといった、とても高級マンション住みのセレブ女性が売りそうにない庶民的なモノまである。「こんなものが売れるわけがない」と思うが、どっこいこれがよく売れている。しかも10元(約200円)もしない冴えない消耗品でありながら、おじさんファンを中心に購入することで年月100万円〜150万円は売り上げているというのだから驚きだ。


インスタントラーメンを売る小姨妹

 この情報だけ得ると、中国の抖音などが行うライブコマースは100円ショップにありそうなものを中心に売るように思える。しかし本来は女性向けに化粧品やアパレル商品や若者向けの流行の商品を販売するという商習慣・消費習慣ができている。若いネットユーザーに買ってもらうためにインフルエンサーやライバーがフォロワー数と金の力をぶつけ合い、最低価格でいい商品を販売するのが通例だ。インフルエンサーはライブコマースで製品販売依頼を受けるために、己を磨き、日々フォロワーを増やすための投稿を地道に行っている。

 多くのライバーが自分磨きをする中で、生成AIによるライバーがぱっと出てきてフォロワー数は中小ライバーを抜き、地方都市の中高年に安いモノを大量に販売し、非実在女性の背後にいる制作者が荒稼ぎした。中国国内でも寝耳に水のような実に奇妙な事象として紹介されている。

 ただ前にも似たような事件があった。映像AIと音声AIを駆使し、本物かのような芸能人やジャックマーなどの起業家などの著名人のニセアカウントが次々に登場した。芸能人に成りすましたアカウントが、ファンの高齢者女性にオンラインで接触し、恋愛感情を抱かせ金銭をだましとった事件では、「老人はこんな分かりやすいオンライン詐欺でだまされるのか」と当時中国のSNSでちょっとした話題に上がった。生成AIで作られた不自然な美女に多くの中高年フォロワーがつき、ライブコマースで売上を伸ばしているのも同じ話で、本物だと信じ込んで中高年だけが投げ銭している。

 だまされるのは高齢者だけではない。愛国者もターゲットとなっている。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る