ニッチだが奥深い「映像伝送」の歴史 アナログからデジタルまでの変遷を総ざらい:小寺信良の「プロフェッショナル×DX」(4/4 ページ)
映像伝送方法はアナログからデジタル、IPと進化してきたが、現場によっては今のなお混在した状態にある。特に文教では今でもアナログ機材が稼働しているケースもあり、若い人にとっては見たこともない端子に面食らう事もあるだろう。アナログからデジタルまでの映像伝送の方式を振り返りながら、その発展の過程をまとめてみたい。
デジタル・コンポーネント方式は、パラレル接続ではケーブルがコンポジットの3倍以上必要であったが、この課題を解決すべく、ソニーがケーブル1本でデジタル・コンポーネント信号を伝送できる、シリアル・デジタル伝送方式を開発した。これがのちの、SDI(Serial Digital Interface)である。
SDIは、DVR-1000の後継機である「DVR-2000」に搭載され、D-1システム構築の大幅な省力化に貢献した。SDIの登場年にはっきりした資料がないが、DVR-2000の発売が1990年であり、少なくともそのころにはSDIの編集システムが存在したことから、だいたいそのあたりから普及が始まったものだろう。なお同じケーブル1本でデジタル信号が伝送できるD-2方式とは、互換性がない。よって両方のシステムを持つプロダクションでは、ケーブルの色を分けるなどして対応した。
1993年にはデジタルベータカムが登場し、急速に10bitデジタル・コンポーネントシステムが普及した(D-1は8bit)ことから、デジタル・コンポジットシステム(D-2方式)は下火になっていった。デジタル・コンポジットシステムは他にパナソニックが開発した「D-3」があり、NHKでは番組運用標準フォーマットとして採用された。ただ現在ではD-2もD-3もVTRの生産が完了しているので、おそらくデジタル・コンポジットシステムを運用しているところはないと思われる。
SDIは国際標準規格となり、その後多くのバリエーションを生んだ。HD方式が登場すると、これを伝送するためにHD-SDIが開発された。当初は放送用フォーマットだったため、1080i伝送である。伝送レートは1.5Gbpsで、以降この数字が上位フォーマットの基準となっていくので、ご記憶されたい。
1080pの伝送は、フレームレートが2倍になるため、データ量も2倍となる。従ってこの伝送フォーマットは、1.5を2倍した「3G-SDI」と呼ばれる。
2015年頃には「4K」が登場するが、これは1080pを縦横2枚、合計4枚の貼り合わせで実現した。従って映像伝送も、3G-SDIを4本束ねた「3G Quad-Link」で対応した。ただケーブルを複数本束ねて運用するスタイルは、長続きしない。アナログにしてもデジタルにしても、パラレル伝送方式は普及しなかった。
やがて豪Blackmagic Designがケーブル1本で4Kが伝送できる「12G-SDI」を開発し、これも国際標準規格となった。3G×4だから、12Gというわけである。
プロ用伝送フォーマットは、記録系の発展とともに変遷しているが、アナログ時代からずっとBNCコネクターとケーブルで伝送してきている。SDIだけでも、SD時代の無印SDIと、HD-SDIには1.5G、3G、6G、4Kの12Gの5種類がある(MPEG系のフォーマットを入れるともっとたくさんある)のに、全てBNCコネクターのインピーダンス75Ωケーブルで伝送できている。これが事態をややこしくしているともいえる。
ケーブルがフォーマット変換してくれるわけではないので、フォーマットの異なる製品同士を直接接続しても、伝送はできない。信号の種類が混在する場合は、フォーマットコンバーターを経由するか、機器側でフォーマット変換をサポートする場合は、入力フォーマットを適切に設定する必要がある。
生放送・生中継では、カメラからの映像出力をリアルタイムで伝送する必要があるが、記録系がファイルベースになることで、次第に伝送もIPに置き換わっている。次回はコンピュータの映像伝送方式と、IP伝送についてまとめてみる。
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