古代の投槍武器「アトラトル」、男女が同じ速度で発射できると判明 女性ハンターの高い狩猟能力を示す:ちょっと昔のInnovative Tech
米ケント州立大学、米タルサ大学などに所属する研究者らは2023年、数千年前から使用されてきた古代の投槍器「アトラトル」を用いると、女性と男性が非常に近い速度で投射物を発射できることを発見した研究報告を発表した。
ちょっと昔のInnovative Tech:
このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。通常は新規性の高い科学論文を解説しているが、ここでは番外編として“ちょっと昔”に発表された個性的な科学論文を取り上げる。
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米ケント州立大学、米タルサ大学などに所属する研究者らが2023年に発表した論文「Atlatl use equalizes female and male projectile weapon velocity」は、数千年前から使用されてきた古代の投槍器「アトラトル」を用いると、女性と男性が非常に近い速度で投射物を発射できることを発見した研究報告である。この発見は、先史時代の女性ハンターが男性ハンターと同等に狩猟能力を持っていたという証拠を補強するものである。
アトラトルは、テコの原理を利用して槍を投げる棒状の道具(実験では66.5cmを使用)である。この道具に槍を引っ掛け、道具と槍を片手で持って投げる。この際、道具は発射台として機能し、槍だけを発射させる。
研究チームは、108人(42人の男性、56人の女性、10人は性別未開示)の参加者を対象に、通常の槍投げの要領で手で槍を投げる場合と、アトラトルを使って槍を投げる場合の2つを試した。それぞれ10回ずつ投げ、合計2160回行われた。
結果は、手で槍を投げる場合は、男性の平均速度が約8.1〜16.1m/s、女性の平均速度:約5.1〜11.5m/sで、明らかに男性の方が速い槍を投げられることが分かった。次にアトラトルを使う場合は、男性の平均速度が約10.1〜24.1m/s、女性の平均速度:約10.1〜20.1m/sで、驚くべきことに、男女の速度差がほとんどなかった。
これらの結果は、アトラトルが性別による投てき能力の差を縮める「平等化装置」として機能し得ることを示唆する。研究者らは、この発見が先史時代の女性ハンターの役割や能力に関する考古学的解釈に影響を与える可能性があると論じている。
Source and Image Credits: Bebber, M.R., Buchanan, B., Eren, M.I. et al. Atlatl use equalizes female and male projectile weapon velocity. Sci Rep 13, 13349(2023). https://doi.org/10.1038/s41598-023-40451-8
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