ニッチだが奥深い「映像伝送」の歴史 コンピュータ・グラフィックスからIP伝送まで:小寺信良の「プロフェッショナル×DX」(4/4 ページ)
映像伝送の歴史について、前回はアナログからデジタルまでの変遷をお伝えした。今回はコンピュータ画像の伝送(録画)と、普及が進むIP伝送についてまとめてみる。
NMI、NDI、SRT……IP規格乱立と収束
15年当時、イーサケーブルによる伝送は10Gbpsが主流であった。だが4K映像は12Gbpsである。圧縮しなければ流せない。ベースバンド規格なのに圧縮が必要という矛盾を抱えることとなった。隙があれば競争が生まれる。
スイッチャーや伝送系の老舗GlassValleyは2022-5/6をプッシュする一方、ソニーは独自規格として「ネットワーク・メディア・インタフェース」(NMI)を立ち上げ、カナダEvertzは「ASPEN」を立ち上げた。NewtTekはTriCasterの中核技術である「ネットワークデバイスインタフェース」(NDI)のライセンスを無償化するなどして、対抗した。14年にカナダのHaivisionが開発した「SRT」(Secure Reliable Transport)は出遅れて、17年にオープンソース化された。
規格が乱立すれば、各社それぞれがアライアンスを組み、機器メーカーの囲い込みが起こるわけだが、15年12月に発足したAlliance for IP Media Solutions(AIMS)により、方式の共存が計られることとなった。創設メンバーのGlassValleyや日本法人の幹事会社であるパナソニックは、IP製品は全方式に対応するという方向性を打ち出した。
ただこの時点でのIP伝送は、SDIの代用品としての考え方、すなわち非圧縮シングルストリーム、1方向で利用するという方向性と、通信としては当たり前の圧縮マルチストリーム、双方向伝送で利用する方向性と2つに別れていた。昨今ようやく伝送速度が40Gや100Gなどゆとりができたことで、非圧縮でもマルチストリームや双方向のシステムが考えられるようになった。
ただし近年のテレビ局では、12G-SDIによるシステム更新を行ったところも多い。なぜならば、映像技術者は1対1で接続するSDIでの運用に慣れており、どこにどんな信号が流れているのか分からないIP伝送ではトラブルシューティングが難しいと考えたからである。
次の更新こそIPで、という放送局も多いが、キー局の報道システムは局内結線でシステムを組むのではなく、大半の機能をクラウド上で運用するという方法に切り替わっている。つまり物理結線がどんどん減って、映像が直接クラウドへいく方向性にある。これはコロナ禍によるリモート運用対応という一面も大きかった。
ただクラウド上でもIP伝送を行うことは変わらず、やはり多くの伝送規格が混在したままになっている。コンバーターなども全てソフトウェア実装なので、コスト面ではそれほど負担にはならないが、フォーマット変換を多く挟むことで遅延が積み重なっていく。
アナログから連綿と続く、「リアルタイムが当然の世界」であった放送は、IP伝送やクラウド化で合理化を図るが、一方で遅延調整という負担を背負うことになった。
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