AIは“学ぶ友”になれるのか? 学校でのAI活用、先生を育てる教育学部の先生に聞いてみた:小寺信良のIT大作戦(2/3 ページ)
AIを活用した子供向けの教育としては、すでに学習塾や通信教育を中心に展開が始まっている。同じ事を何度聞いても腹を立てない、学習の進捗を個別具体的に把握してくれるなど、人間の先生ではカバーできない部分を担うものとして、注目が集まっている。
学校教育にマッチするAIとは?
今回中村先生に協力して生成AIのキャラクターを提供したのは、リートンテクノロジーズジャパンだ。同社は生成AIの無料サービスで知られるところだが、これまでAI自体を学ぶ教育プログラムも同時に展開してきた。ただ今回のように、学校教育の中にAIを取り入れるという試みは、同社にとっても初めてのチャレンジになる。
公立中学校の授業にAIを取り入れるという実証研究と、その未来像について、中村先生に話を伺った。
――今回こうした実証研究を立ち上げられたのは、どういうきっかけだったんでしょうか
中村氏(以下敬称略):生成AIのサービスが登場したのが、おそらく2022年末から2023年ごろだったと思うんですけど、それが社会に急速に広まる中で、学校で生成AIを使わなくても、子供が家庭で使ってくるという状況が起き始めてきています。そういった中で、生成AIの使い方について学校でも指導しなければならないし、逆に生成AIをうまく使うことができれば、教育効果を高めることができるのではないかという期待があって、この研究を始めたという経緯があります。いろいろ準備もあったので、実際に始められたのは24年度の4月からということになります。
――子供達にAIを使わせる上では、その回答の正しさとか、授業内容から離脱しないようにといった、ある程度の囲い込みが必要なのかなと思います。それはAIのほうでRAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)などを使って調整していく形ですか?
中村:いろいろな対応の仕方があると思うんですけど、まず第一に生徒にはAIは間違えることがあるんだという大前提を指導するというところから始めました。具体的にAIが間違ってる事例を体験したりといった中で、本当に正しいかを注意深く考えなきゃいけないということ。第2に、どうやってそれを確かめるかということ。
私の担当している理科であれば、どんな答えが出たとしても、それを実験とか観察で正しいかどうか検証することが大事だよね、ということで、生成AIの使い方について生徒にも正しく理解させるということを取り組んでいます。
――なるほど。確かに理科なら、最終的には実験して物理現象と違うんだったらダメだということですもんね。AIを使って学習するには、ちょうどいい教科かもしれません。昨今は学習塾等でAIを活用する事例も多く見かけるところですが、学校教育の中でAIを取り入れる違いや意義とは、どういうところにあるのでしょうか
中村:主に2つあると考えていまして、1つ目は塾ではテストで点を取るために内容を正しく理解するということを目的としていますので、AIを活用するときも、分からないことを聞くみたいな使い方が大部分なのかなと思います。
一方で学校では多様な能力を育成するということを目的としていますので、必ずしも内容について質問するだけではなく、生成AIに考えることを支援してもらったり、動機付けや意欲を高めるみたいな多彩な使い方がなされるという点において、違いがあるかなという思います。
2点目として、学校は個人ではなくて集団で学ぶ場ですので、集団で議論した結果をAIに投げて妥当性を判断してもらって、また集団に戻ってきて生徒同士の議論を盛り上げる方法として使うということも考えられます。
また集団ということでは、先生が全員に対してすぐにフィードバックを返すことはできないこと、例えばプリントなんかは、1回集めて先生が採点して次の日返すみたいな方法を今までとっていたのが、AIであれば即時的にフィードバックができるようになるという違いがあります。すぐに成果を評価してもらってフィードバックを返すという、その繰り返しが早く、回数をこなすことができるようになるという点はメリットとしてあるかなと思います。
――確かにその場ですぐに改善できるということは、学習の定着にも効果がありそうですね。そういう意味では、AIは先生の手足となるっていう格好になりそうですか?
中村:先生の代わりにフィードバックを担当してもらうというところはあるんですが、最終的な成績については先生が責任を持つというところですね。その際もAIによる評価を参考にして、先生が最終的に評価した方が圧倒的に効率がいいという効果もあるかと思っています。
――ああ、AIもそういう評価軸みたいなものは持ってるわけですね?
中村:もちろんそれも先生が与えなきゃいけないんですけど、例えば教育の世界では「ルーブリック」って言って、こういうパフォーマンスを達成できていたら3点、こういうパフォーマンスが2点みたいな、そういうのをちゃんと文章化して生成AIに与えることで、そのルーブリックに基づいて評価させるってことができます。
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