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「生成AI検索」は著作権侵害なのか? 日本新聞協会の“怒りの声明”にみる問題の本質小寺信良のIT大作戦(3/3 ページ)

日本新聞協会が、Web検索と連動してAIがサマリーを返す検索エンジンのサービスについて、著作権侵害に該当する可能性が高いとする声明を発表した。以前から同協会では、AIによる権利侵害に対して警戒感を強めているが、この問題の本質はどこにあるのだろうか。

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それは著作権の問題なのか

 一方でMicrosoftのBingによるAIの実装は、こうした指摘を受けないよう、慎重に設計されているように見える。

 Bingで検索すると、回答として一番近いサイトの内容の一部が抜き出され、そこにチャット用の入力欄が表示される。つまりここを入り口として、Copilotへ移行するわけだ。ユーザーがCopilotで要約せよと言えばサマリーを出してくるが、これは通常のチャット型AIと同じである。


Bingでの検索結果

Copilotへ移動した結果

 もう1つのAI活用としては、ディープ検索がある。ディープ検索が行うのは、ユーザーが入力した検索ワードを、ChatGPTを用いてより詳細な検索クエリを作成する。そして検索結果もまた、そのクエリにより深く関連するかを判断して、検索結果を戻してくる。戻ってくる結果は要約ではなく、リンクだ。


ディープ検索の結果

 これは、ユーザーが「検索」に何を期待するのか、という話になる。検索しただけでサマリーまで出てくるGoogleは、検索の先にあるもの、すなわち回答を先回りして集めといてくれるものであり、検索という行為の先にあるゴールを見据えたものといえる。

 一方でBingのディープ検索のような実装は、質問意図に対してより的確なサイトを見つけたいというユーザーにとっては、実用的である。どちらも検索という行為の体験を向上させるものだが、方向性が違っている。

 サイトを見つけたいだけみたいな者がいるのかと思われるかもしれないが、実際に情報の真偽を確認するには、その情報の出所は重要だ。個人ブログと行政機関公式サイトの情報のどちらが信頼性が高いかは、言うまでもない。

 また情報を引用したい場合はその出所を示さなければならず、必然的にサイトのURLは必要になる。AIのサマリーで知りましたでは、話にならない。これは論文などでは非常に重要なポイントだし、子供達にはAIのサマリーを全面的に信用するな、と教える必要はある。

 ただその一方で、検索ついでのAIサマリーで十分な場合もあるのだ。例えばどうしても用語が思い出せないとき、その用語の意味するところをズラズラと検索クエリに入力して答えを探すみたいな使い方の時には、オリジナルのサイトまで訪れる必要はない。他にはちょっと話のネタに最近の話題を仕入れたいとか、あまり厳密に正誤を知る必要もないような事もあるだろう。

 これまではこのようなちょっとした行為に際しても、それぞれのサイトのアクセスカウンターを回していた。全てのサイトに広告がついて回るわけではないが、そうした軽微な行為にも広告が表示され、エコシステムが回っていたわけである。こうした傍流ともいえる収入は、AIサマリーによってなくなることはあり得るだろう。

 これは大変だ、と大騒ぎする気持ちは分かる。かく言う筆者もこうしたコラムでメシが食えるのは、皆さんがどこからか知ってここにアクセスして広告を回してくれるからだ。

 だが一消費者の目線として言わせてもらうと、昨今のニュースサイトでは、もしかして内容を読ませたくないのかと錯覚するほど、本文の邪魔になるように広告が展開される。本文を見るのに15秒ほどの動画広告を見せられたかと思うと、そのあとシレッと別の全面広告が表示されたりする。特にスマートフォン用サイトでその傾向が顕著だ。いくら広告によって無料でニュースが読めるとはいっても、二重三重に広告機能が被さっており、もはや一線を越えてしまった感がある。

 昨今生成AIサービスがさかんにスマートフォン向けのバージョンをリリースしているが、筆者は最初そのメリットがよく分からなかった。AIを使って調べものをするなら、PCのほうが便利だろうと思っていたからだ。

 だが広告のジャングルをかき分けてニュース本文を懸命に追いかけるより、AIに探させてファクトだけ知ったほうが早いと考える人も一定数いるのではないか。つまりスマホ向けAIの実装は、行き過ぎた広告モデルに対する消費者の反感を利用したマーケティングともいえるのではないか。そんな風に考えると、スマホにAIがガンガン実装される理由も腑に落ちる。

 新聞協会の指摘は、情報コンテンツとAIサマリーの問題のように見えるが、その本質はコンテンツと広告の出し方の問題にあるのではないか。サマリーだけ見て十分というひとがいるというよりは、広告から逃れるためにAIを使うという人の流れがあるということは、無視するべきではないだろう。

 筆者はメディアの仕事に首までつかってもう40年になる。今さらきれい事を言ってもどうにもならないのだが、メディアには消費者に対してより良いコンテンツ体験を提供する使命があると思っている。でもそれは金が回ってからの話だよね、というところを恥ずかしげもなく消費者に漏らさなければならないほど、メディアが広告で食うのは、難易度が高くなっているということなのである。

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