なぜソニーが? 個人でも使えるようになった、睡眠時無呼吸症候群のリスク計測サービス「Sleep Doc」:小寺信良のIT大作戦(3/3 ページ)
「睡眠時無呼吸症候群」を測定するサービス「SleepDoc」が7月から個人向けにもサービスを拡大した。このサービスを展開しているサプリムは、エムスリーとソニーグループの合弁会社。なぜソニーが? というところから詳しく取材してみた。
医療機関へどうつなぐか
23年10月にサービスを開始したSleep Docでは、まず運輸・運送業界に着目した。それというのも、国土交通省に提出された順天堂大学大学院の資料によれば、交通事故発生率が健康な人と比べてSASでは約3倍という数字が出ているからである。これは飲酒運転に匹敵する交通事故リスクであるという。加えて日本大学の試算によれば、睡眠障害全体の経済的損失は年間3兆5000億円と推定されるという。
物流ということからすれば、「2024年問題」はすぐに思い当たるところである。この4月からトラックドライバーの時間外労働が960時間に制限されたのも記憶に新しいところだが、この背景には慢性的な長時間労働により、事故リスクが拡大したことも要因の1つに上げられている。
SASは関係ないのではと思われるかもしれないが、慢性的な眠気と疲労の区別は困難との見方もある。つまり事故リスクが高まったのは、疲労ではなくSASである可能性も否定できないと言うことになる。
実際にSASと診断されながらも乗務したことで起こった事故は、すでに20年前から報告されており、トラックに限らず高速バスや路線バス、船舶等で事故が起こっている。これを受けて全日本トラック協会では、2019年4月よりSASのスクリーニング検査助成制度をスタートさせた。
一方Sleep Docの検査は医療機関による検査ではないので、検査の結果を受けて、改めて専門医の診察を受ける事になる。そこでもう一度、今度は医療行為に属するレベルの検査を行うという流れだ。
Sleep Docの検査は無駄ではないかと思われるかもしれないが、すでにSleep Docの事を把握している病院も首都圏、中部、関西地域を中心に拡がっており、そこで受診すれば予備検査なしに、すぐ精密検査に移る事もあるという。もちろんそれ以外の地域の病院でも、Sleep Docのレポートを持参すれば、専門医の参考になるだろう。
すでに23年からのB2Bサービスでは数千人規模でSleep Docが利用されており、医療機関からも高く評価されている。当初は腕時計型の計測器しかなかったが、眠るときに腕に何か付けて寝るのが苦手という声も多かった事から、24年の一般個人向けサービスを展開するにあたり、お腹のあたりにクリップで挟むスタイルの計測器も新規開発した。また国内ではApple Watchの利用者が多いということで、アプリをインストールするだけで計測できるようにした。
Apple Watchを利用すれば2800円、計測器レンタルでは7980円となっている。約8000円で気軽にリスクがチェックできるわけだが、その後の診察や治療にもお金がかかるわけで、金銭的負担を考えると尻込みする人も一定数いるのではないだろうか。
SASの検査や治療は、交通事故や疾病のリスクも下げることから、生命保険会社にも歓迎されるはずだ。1度の検査で低リスクと出ても、毎年検査して経過観察するべきだろう。保険会社がSASのリスクに前向きになれば、検査費用や治療費をカバーする保険商品などが登場してもおかしくない。まあ有り体に言えば、ソニー生命やソニー損保は何してんのという話である。
SASは、特に交通事故の原因になりやすいことから、無関係の人の命まで失われる可能性が高い疾患である。仕事効率が下がるということも重要な話だが、人命に関わるという側面は軽視すべきではないだろう。
筆者も中リスクと判定されたことから、近日中にオンラインでの診察を申し込む予定だ。定年年齢が65歳だ70歳だといわれている昨今、長く健康で働き続けるためにも、睡眠の改善は社会的にも重点的に取り組むべき課題なのではないかと思っている。
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