“N/S高研究部の学生2人”が数学の未解決問題を解決か プレプリントで論文公開:Innovative Tech
N/S高研究部(KdEi研)に所属する横井杏樹さん(高1)と、N/S高研究部アドバイザーで東京理科大学に所属する川村花道さんは、数学の「多重ゼータ値」に関する未解決問題を解決したという研究報告を発表した。
Innovative Tech:
このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
X: @shiropen2
N/S高研究部(KdEi研)に所属する横井杏樹さん(高1)と、N/S高研究部アドバイザーで東京理科大学に所属する川村花道さんによる共著論文「Cyclic sum formula for certain parametrized multiple zeta values」は、数学の「多重ゼータ値」に関する未解決問題を解決したという研究報告である。
多重ゼータ値とは、与えられた自然数の組k=(k1,……,kr)に対して、次の画像の無限級数(項の数が無限にある数列を足し合わせた値)で定まる実数を指す。1990年代ころから現在まで、数学者たちの注目を集め続け、日夜研究が進んでいる分野である。
まず背景として、2006年に数学者の大野泰生さんと若林徳子さんが多重ゼータ値に関する面白い性質を発見した。彼らは、これらの値をある特定の方法で足し合わせると、より単純な形で表せるという「巡回和公式」を示した。
その後、数学者の五十嵐正弘さんがこの研究をさらに発展させた。元の公式にパラメータを1つ、さらに2つと加えていき、より一般的な形の公式を作ることに成功。これは、元の公式を特別な場合として含む、より広い範囲で成り立つ公式である。
今回の論文の著者である横井さんと川村さんは、五十嵐さんの研究をさらに一歩進めた。五十嵐さんが「3つのパラメータを持つ場合はどうなるだろうか」という問題を提起していたのに対し、特定の条件下でその答えを見つけることに成功したのである。
具体的には、α、β、γという3つのパラメータを導入し、これらを使って新しい数式を定義。この新しい式に対しても、巡回和公式に似た性質が成り立つことを証明した。さらに、この新しい公式は、パラメータを特別な値に設定すると、五十嵐さんが見つけた公式と一致することも確認できた。
Source and Image Credits: Hanamichi Kawamura, Anju Yokoi. Cyclic sum formula for certain parametrized multiple zeta values.
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 50年以上の未解決問題「ソファ移動問題」を数学的に解決か 韓国の研究者が発表 L字の廊下を曲がれる最大の大きさとは
韓国の延世大学に所属するペク・チネさんは、1966年からの未解決問題「ソファ移動問題」(Moving sofa problem)を解決したという研究報告を発表した。 - 米国の女子高校生2人「ピタゴラスの定理」を新証明 しかも5通り 査読済みで権威ある学術誌に登場
2023年、米国の高校生ネキヤ・ジャクソンさんとカルセア・ジョンソンさんは、地元の高校のコンテストで驚くべき成果を披露した。それは、三角関数を用いてピタゴラスの定理を証明するという方法の発見であった。 - エントロピー増大の3つの計算式、量子系では一致しない新発見 従来の常識を覆す 米研究者らが発表
米メリーランド大学と米ロチェスター大学に所属する研究者らは、量子系において、従来同等と考えれてきた3つのエントロピー増大の計算式が異なる結果を示すことを証明した研究報告を発表した。 - “最も大きい素数”更新 「2^1億3627万9841-1」元NVIDIA社員が発見 文字に起こすと4000万字超え【訂正あり】
素数を探求するプロジェクト「GIMPS」は、今まで人類が見つけた数値の中で最も大きい素数「2^1億3627万9841-1」(1億3627万9841個の2を掛け合わせ、1を引いた値)を見つけたと発表した。 - “エントロピー増大”を永遠に回避できる? 量子系が示す新たな数学的証明、米コロラド大学が報告
米コロラド大学ボルダー校に所属する研究者らは、自然が無秩序へと向かうエントロピー増大に抵抗できる量子状態が存在することを、新たな数学的証明で示した研究報告を発表した。