「量子もつれ」で重力をこれまでにない高精度で測定 新型原子重力計をドイツチームが開発 重力波検出への応用も:Innovative Tech
ドイツのハノーファー大学やドイツ航空宇宙センターなどに所属する研究者らは、原子の量子もつれを活用して重力をこれまでにない高精度で測定する新しい原子重力計を実証した研究報告を発表した。
Innovative Tech:
このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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ドイツのハノーファー大学やドイツ航空宇宙センターなどに所属する研究者らが発表した論文「Entanglement-enhanced atomic gravimeter」は、原子の量子もつれを活用して重力をこれまでにない高精度で測定する新しい原子重力計を実証した研究報告である。
従来の原子干渉計では、量子力学的な揺らぎ(量子ノイズ)が精度を制限していた。研究チームは、この限界を超えるために量子もつれを利用するアプローチを取った。量子もつれとは、複数の粒子が互いに強く結びついた状態で、一方の粒子の測定が他方の状態に即座に影響を与える現象である。
実験では、まず約6000個のルビジウム原子を極低温まで冷やして「ボース・アインシュタイン凝縮体」(BEC)と呼ばれる特殊な状態を作り出した。このBECの中で原子同士を衝突させることで量子もつれを生成する。これは、磁場を精密に制御しながら原子の内部状態を変化させることで実現できる。
次に、このもつれ合った原子群を使って重力計を構成した。レーザー光とマイクロ波を使って原子を空間的に分離し、重力の影響で生じる位相のずれを測定する。通常の原子では量子ノイズによってこの測定の精度が制限されるが、量子もつれを使うことでこのノイズを大幅に低減できる。
実験の結果、研究チームは標準量子限界と呼ばれる理論的な限界を1.7dB上回る感度を達成。これは、従来の方法と比べて測定の精度が約1.5倍向上したことを意味する。実際に研究室の重力加速度を測定したところ、既知の値と誤差の範囲内で一致した。
さらに、この新しい重力計は従来の方法と比べて2.6倍速く目標の精度に到達できることも示した。これは、より短時間で高精度な測定が可能になることを意味する。
この技術の大きな利点は、原子の動きを極めて精密に制御できる点にある。これにより、より大きな装置への拡張も可能となる。将来的には、この技術を使って重力の詳細な地図作りや、アインシュタインの一般相対性理論の検証、さらには重力波の検出など、さまざまな応用が期待される。特に、宇宙空間での実験や、大規模な実験施設での高精度測定に活用できる可能性がある。
Source and Image Credits: Christophe Cassens, Bernd Meyer-Hoppe, Ernst Rasel, and Carsten Klempt. Entanglement-enhanced atomic gravimeter. Phys. Rev. X keisn - Accepted 19 November, 2024
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