「mixi2」の登場で、SNS業界は“再編”する?:小寺信良のIT大作戦(2/2 ページ)
MIXIが新しいSNS「mixi2」のサービスをスタートさせたのは、2024年12月16日であった。通常は新サービスをはじめる場合、メディアに記事にして欲しいはずなので、メディア向けに公開前に情報解禁日を指定したプレスリリースを送り、サービス開始と共に一斉にメディアにニュースが載るというのが普通だ。だがmixi2に関しては、事前のプレスリリースは出なかったようだ。
入念に設計された構造
mixi2は、MIXIが手掛けた次のSNSなので、当然そういう名前になるのは道理だが、全く別の名前を付けても良かったはずだ。それでもあえてmixiの名前を冠したのは、初代mixiが持っていたコンセプト、すなわち「つながりたい人との関係性を深められる」という部分を継承したものであるという表現だろう。
加えて最初に飛びつくのは20年前のオリジナルを知っている人達であろうことから、大挙して大荒れといったことにはならないだろうという読みもあったはずだ。
mixi2の構造は、オリジナルのmixiとはかなり違っている。そもそもプラットフォームがスマホアプリしかないことから、仕事中はPCがメインの人達は四六時中貼り付いているわけにはいかない。
この点では、PCキーボードからスマホへの持ち替えが必要になる。このワンクッションには、依存性を抑制する効果があると考えられる。「ハマる」ことが最善とされた時代は終わった、ということだ。今後、Web版が登場するかは未定となっているが、特にフリーランスやリモートワークのような、調整すれば時間が無限に使えてしまう人達にとっては、Web版の登場はかなり危険なものになり得るだろう。
「マイミク」のような人間関係のつながりは、Xのようにフォロワーとフォローという格好で整理されている。自分や相手のフォロワーも見る事ができるが、それはわざわざ調べなければならない。初代mixiのように自分のホーム画面に一覧表示されるわけではなく、その点では初代mixiにあった、人と人との関係性を示す「バッジ」的なコンセプトは失われたと言える。
ホーム画面には、自分がフォローしている人のみのタイムラインと、「発見」というレコメンドのタイムラインがある。機能としてはXと同じだが、現時点で広告は入らないので、全体としてはシンプルに見える。
発言を観察していると、Xのようにニュースネタを投稿する人も多く見られる。一方で旧mixiを知る人達は、もっと身近な話題を投稿する傾向にある。mixi2のコンセプトからすれば、Xのように一方的にこちらが知っているだけの人をわざわざフォローする必然性は薄く、それよりも知り合いをいかに効率的に見つけるかが課題であろう。
書き込みは、最初のほうはテキストのみで、それが震えたり大きくなったりする「エモテキ」機能がよく使われていた。最近は使われ方も落ち着いてきて、コメントに写真を添えたものが多くなっているように見える。
「リアクション」が持つゆるやかな表現
mixi2を独特のものにしているのは、「リアクション」としての絵文字だ。共感を示すハートボタンもあるが、それよりももう一歩進んだ感情をリアクションすることができる。LINEスタンプのようなもの、とも言えるが、1つの投稿に対して5種類のリアクションが付けられることで、人とは違った反応を示すこともできるようになっている。
公式リアクションの種類もシーズンごとに入れ替えが行われており、年明けは正月に使いやすい「あけおめ」や「ことよろ」といったリアクションが追加されている。こうした公式の介入がちょくちょく起こることも、コミュニティへの忠誠度が上がる要因となる。
リアクションは決められたパターンの中から選択するだけではあるが、バリエーションは多いので、自分が感じたことをより具体的に反応できる。返信するほどでもないが、ちゃんと内容を把握していることがお互いに分かるという、ライトなコミュニケーションを形成する。単に「いいね!」が付けられるより、もう一歩踏み込んでいる。
いまわれわれが必要としていたのは、空虚に向かってひたすら正論を吐き「いいね!」を集めて自己顕示欲を満足させたり、バエ写真を山ほど投稿して幸せアピールをするような空間ではなく、ふとつぶやいたことが誰かにスッと受け入れられるという、もう少し静的な関係性だったのではないだろうか。
リアクションのパターンには、発言を否定するようなものは注意深く排除されている。ユーザーはリアクションのパターンを選ぶ過程によって気持ちが整理され、ある意味ニュートラルな状態にコントロールされる。
今後注意しなければならないのは、勝手にルールやマナーを作り出す人の存在だ。例えば会社の上司の書き込みには必ずリアクションするのがマナー、などといったムードが出てきたら、それは積極的に否定しなければならない。義務を伴うコミュニケーションは、長続きしない。
また、参加したからには何かを書かなければならないと考えるのも違う。人の発言を読んでリアクションするだけで「参加」となるのが、mixi2の設計の特徴である。これを利用しない手はない。スタート直後の喧噪からすれば昨今は投稿も落ち着いてきているが、これを収束や失速と判断するにはまだ早い。
Twitter/Xはオワコンといわれて、もう長い。ポストXを巡ってBlueskyやThreadsといったサービスが立ちあがったが、現在までXをしのぐまでには至っていない。そちらへメインを移行したという人もいるだろうが、Xを辞めたわけではないだろう。みんなまだそこまでは、踏ん切りが付かないのだ。
その理由は、私たちが中国という存在を無視できない理由と似ている。問題は多いが、圧倒的な人数とエコシステムで他を凌駕するから、それに「乗る」ことのメリットが捨てられないのだ。
みんなが大挙してXからmixi2へ移住するとは考えにくい。位置付けが違うSNSが存在し、そこはそこ、ここはこことして、それぞれの意味合いとして生存していくことになるだろう。とはいえ、新しいサービスがスタートしたばかりのぎこちない感じを味わえるのも、久しぶりである。急がず騒がず、ゆっくり楽しめるサービスとなることに期待したい。
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